小説 | ナノ

act16 [ 17/218 ]

「はぁ…はぁ……」
 妖の血で染まった護身刀を持つ手が震える。主役級の妖怪を複数相手にするのは、やはり無理があった。
「くそっ……カハッ…」
 ギリギリに攻撃を交わしたが、打ち所が悪かったのか内臓を傷つけられたようだ。
 ペッと血を吐くも、直ぐに競り上がってくる感じがする。
 何としてでも、ぬらりひょんがくるまで守りきらなくては。
 その思いだけが藍を動かしていたが、限界は直ぐそこまで着ていた。
 畳みに叩きつけられた身体が痛み動かすことが出来ない。
「人の子にしてはよう持った方じゃ。あの無礼な振る舞いも、うぬの生き胆の免じて許してやろうぞ」
 顎を掴まれ唇が重なろうとしたその時、ダンダンダンッと畳の上を駆け抜ける音がした。
 長ドスが、羽衣狐目掛けて振り下ろされる。攻撃は、側近達の手によって止められたが、ぬらりひょんは藍の腕を掴むと自分の背に隠した。
「何奴じゃ!!」
「……ヤクザものか?」
 大鬼の金棒を交わした際に着物が破れたのだろう。ぬらりひょんの背中が丸見えだ。見慣れた刺青に安堵した。
「ワシは、奴良組総大将ぬらりひょん。こいつは、ワシの女じゃ。わりぃが連れて帰るぜ」
「なんと妖が人を助けに? 異なことをする奴じゃ。血迷うた逸れ鼠か何かか?」
 蔑むよう羽衣狐の言葉に、藍は直ぐ傍まできている大量の妖気を感じ笑みを浮かべた。
「なんだ来たのかてめーら」
「百鬼夜行ですからな」
「刺青だけじゃあ寂しいでしょう」
 壁を突き破り進入してきたぬらりひょんの下僕達に、彼も嬉しいのかニッと笑みを浮かべた。
「……馬鹿な奴らじゃ」
「……なにやら珍客が多いのう。力の差も分からぬ虫ケラが。曲者じゃ。汚い鼠共が入り込んでおるぞ」
 珱姫と苔姫は緋色の袿で守られているから手出しは出来ない。乱闘になるだろうから、下僕が安全な場所に移してくれるだろう。
 藍はと云うと、茨木童子に捕まっており逃げ出すことすら出来ない状態だ。
「誰か余興を見せてくれるものはおらぬか?」
 羽衣狐の一言に名乗りを上げたのは、あの大鬼だった。
「我が名は凱郎太! 羅城門に千年住まう者!! この名の技、冥土の土産に持って行け。雷棍棒豪風!!」
 巨大な鬼棒を振り回すその遠心力で風を起す。
「ノウボウ、タリツ、タボリツ、パラボリツ、シャキンメイ、シャキンメイ、タララサンタン、オエンビ、ソワカ」
 前線に出ていた弱い妖怪達との間に光の防壁が生じ凱郎太の攻撃を弾き返す。
 しかし、全部が弾かれたわけではない。相手の力の方が強すぎて何匹か犠牲になっているものもいた。
「これは、一体どうなっている」
 唖然とする羽衣狐に、藍は肩で息をしながらクスクスと笑う。
「彼らに……危害を加えるのは、許さ…ない」
「お主が陰陽師だというのかえ」
「だとしたら?」
 術を使ったのが藍だと悟った羽衣狐は、わなわなと身体を震わせて怒気を撒き散らす。
「凱郎太!!」
「のけ」
 敵の意識が藍に集中していた隙をぬらりひょんは見逃さず、凱郎太を真っ二つにした。
「なぁああああ」
 雄たけびを上げて倒れる凱郎太を気にする様子も無く、羽衣狐に長ドスを向け言った。
「邪魔する奴ぁ……たたっ斬る」
 その一言で、奴良組の士気が上がった。恐ろしいほどのカリスマにゾクリとするものを感じた。
「何をしておるお前達。妖としての格の違いを見せてやらんか」
 羽衣狐の一言で、広間は戦場と化した。
 藍は、羽衣狐の腕に囚われて身動きが取れない。
 ぬらりひょんは、敵の合間を縫い羽衣狐の前に立ちはだかり長ドスを構えた。
「面白い。面白い余興じゃ……。ここまで魅せる役者も珍しい。わらわに刃向うた妖は百年ぶりじゃ」
「ワシの女にさわんじゃねぇ」
「馬鹿っ! 無闇に突っ込むな」
 羽衣狐の尻尾が、容赦なくぬらりひょんの身体を貫く。その攻撃はすさまじく、血を吐き膝をついたほどだ。
「ほぉ、それほどまでにこの女に惚れておるのか…。この芝居は、本当に奇想天外じゃ。この小娘は、妖を誑かす力を持っておるのかのぉ。ますます生き胆を食うてみたくなったわ」
「藍!!!」

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -