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act15 [ 16/218 ]


 翌日、豊臣家から珱姫を側室に迎えたいと人に化けた妖が来ていた。
 逸早くそれを感知した藍は、珱姫に緋色の袿を脱ぎ渡した。
「妖が、邸内に入った。急いで唐衣を脱げ、何でも良いから重袿とそれを交換しろ」
「は、はい……」
 珱姫は、唐衣を脱ぎ同系色の重袿を脱ぎ藍の緋色の袿を着込む。
「羽衣狐が動き出したんだろう。抵抗すればその場で殺される可能性が高い。……たとえ、敵陣の根城に連れて行かれたとしても、何があっても俺が守る」
 藍は、珱姫が着ていた重袿を着て迎えに来た妖に備える。
 帯刀している祢々切丸は、ここを訪れるであろうぬらりひょんの為に置いていく。
 彼ならこの刀を扱え、そして羽衣狐を撃ち魑魅魍魎の主となるだろう。
 藍は、以前から秀元に頼んでいた護身刀がある。何とか間に合って良かった。
「さあ、参りましょうか」
 警護していた者達を殺して入ってきた妖の前に藍は、珱姫に寄り添うように立った。


 強い見鬼の才と妖を惹き付ける力が功を成したのか、珱姫とは別に急遽藍も側室にすると妖共に連れ去られた。
 本当は、食いたいのだろうが我慢している辺り、羽衣狐に対する忠誠心は立派だと言える。
 連れて来られた先は、大阪城の最上階に位置する広間だ。
「無礼者っ、珱姫様に何をなさる。丁寧に案内することも出来ぬのかっ!」
 珱姫の背中を押し部屋の中に入れようとした妖の腕を叩き落し、藍は彼女を守るように中へと入る。
「待っておったぞ珱姫。それと……そちは何じゃ? 見慣れぬ顔よのぉ」
「淀殿で御座いますね。わたくしは、珱姫様の付き人に御座います。珱姫様を側室に迎えにこられた殿方が、わたくしも一緒にと連れて来られたのです」
 人型を取っているが、全て妖怪だ。上座に鎮座するのが、宿敵羽衣狐か。
「ああ、あれが珱姫……」
 蔑むような目で珱姫を見る美しい髪を持った女に藍はムッと睨みつける。
「そうか、まあ良い。珱姫、京一の美貌と噂の……本当に噂どおり美しいのぉ。さあ、二人とも近う近う」
 藍は、珱姫の手を握り大丈夫だと目で合図する。彼女は、不安を隠しきれずも小さく頷き手を握り返してくれた。
「今日は五人か……」
 傍で控えている武士の格好をした妖怪が、ポツリと呟く。まるで、餌の数を数えているようにも取れた。
「ちょっと、いつまで緊張で震えているの? 貞姫、淀殿へのご紹介の途中よ」
 この後の惨劇を予知しているのだろう。顔から血の気が引き真っ白になっている彼女を他所に、クスクスと笑う彼女は気楽なものである。
「私のような田舎者を側室に選んでいただき光栄です。五つの年まで髪の生えなかった私ですが、絶望し海に身を投げたその先に沈んでいた金色の仏像様を丁寧にお祭りしたところ、このようにありがたい髪を授かったのです」
「知っておるぞ髪長姫。どうれさわらしてみい」
 羽衣狐は、髪長姫の頭を撫でながら賛辞を送る。その姿は、まるで獲物を捕らえ食そうとする姿にそっくりだ。
「なる程さすが、日本一美しい髪を持つ絶世の美女」
「光栄至極に存じます……」
「ではさっそく……ゴックン。やはり不思議な力を持つ者の生き胆は違うのぉ」
 ジュルジュルと唇から生き胆を吸い上げる羽衣狐に、藍以外はパニックに落ちっていた。
「はう…はう…やはり、食べられてしまうのね。私の見た未来が現実に……」
 部屋を飛び出そうとした貞姫を本性を現した妖が囲い込む。
「ヒィィイイッ……妖…。未来が見える。妖に私は……イヤァアァア!! 外に、外に出してぇぇええ」
「何事だ!」
 泣き叫ぶ貞姫の声を聞きつけた豊臣家の重鎮が入ってきたが、妖を前にどうする事もできず首を刎ねられて彼の生涯は幕を閉じた。
 別室に引きずり込まれた貞姫もまた、ゴキッボキッと骨が砕ける音からして妖に食われたのだろう。
「……珱姫、そこのちまいのを抱きしめて後へ下がれ。奴等には、指一本触れさせねぇ」
 珱姫を庇うように立ちはだかる藍に、羽衣狐がニィッと唇が弧を描く。
「恐れることはない。そなた達の血肉は、妖怪千年の都の礎となるのだから。さあ、委ねよ……」
 藍に向かって伸ばされる手を隠し持っていた護身刀で切り付ける。
 しかし、見切られていたのか羽衣狐を守る妖怪に阻まれた。その中には、以前対峙した茨木童子の姿もあった。
「ほぉ…わらわに刃向かうとな」
 重袿を脱ぎ捨て身軽になった藍は、護身刀を構えなおして言った。
「生憎そう簡単にやれるものじゃないんでね。寝言は、寝てから言うもんだぜ。オ・バ・サ・ン」
「人間の分際でわらわを愚弄する気か!」
「他人の生き胆で力をつけることしか考えぬ低俗な野弧風情に負けるとでも思ってんのかよ。うちの姫に手ぇ出したんだ。きっちり落とし前は付けさせて貰うぜ」
 羽衣狐を目掛けて切りかかろうにも敵が多すぎて、そこまで辿り着けない。
 早くぬらりひょんが到着してくれれば戦いは楽になるのだが、その気配はまだない。
 暫くの間、一人で踏ん張るしかないようだ。

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