小説 | ナノ

act9 [ 10/218 ]


「悪いが、こいつはワシのじゃ。横取りは許さん」
 グイッと腕を引かれ、逞しい背中に敵から隠すように庇われる。
 銀と黒の二色の長い髪を揺らす男が、敵を見据えて睨みつけていた。見間違えることのない。ぬらりひょんだ。
 彼の周りには、無数の妖が臨戦態勢を取っている。
「お前、何者だ」
「人に名を尋ねるなら自分から名乗るのが礼儀じゃろう」
 人を小馬鹿にする態度は、健在のようで相手はぬらりひょんのペースに嵌っている。
「……茨木童子」
「じゃあ、帰るか」
 名乗らせるだけ名乗らせた後、ぬらりひょんは茨木童子に興味を無くしたといわんばかりに綺麗にスルーしている。
「あんたと云う奴は……」
 呆れ7割・頭痛3割。完全に無視されている茨木童子に少しばかり同情してしまう。
 常識に囚われなさ過ぎるのも如何なものだろう。
「ふざけるな! 殺す!! 殺してやる!」
 元々短気な性質なのかプッツン切れた茨木童子は、ぬらりひょん目掛けて藍に放った技を仕掛けてきた。
 それをあっさりと交わし、尚且つ藍を抱えたまま茨木童子の股間に前飛び蹴りを食らわせた。
「〜〜〜〜〜っ!!!!」
 あれは痛い。相当痛い。見ていた男妖怪達の顔が、心なしか青いのは見間違いではないはず。急所を容赦なく蹴られたのだ。腫れてないと良いな。
 股間を押さえ前のめりになり蹲る茨木童子を見て、ぬらりひょんはハッと鼻で哂い飛ばしている。
「お前なんぞに構ってる時間が勿体無い。行くぞ」
 そう言うと、藍を俵担ぎにしてその場を後にした。


 妖狩りをするわけでもなく、ぬらりひょんの気紛れにつき合わされている部下に同情の念を寄せる。
 色々と言いたい事はあるのだが、ここで暴れたところで捕まるだけで、あの時の二の舞になりかねないので止めておく。
 奴良組が居にしている島原の屋敷の一角に連れ込まれた藍は、ハァと大きな溜息を吐いた。
 今置かれている状況を鑑みれば溜息の一つや二つ吐きたくなるというものだ。
 隣に無理矢理座らされ酌を強要させられる。
「助けて貰ったことには礼を言うが、俺はお前のものになった覚えはないぞ」
 お猪口に酒を注いでやりながら文句を言うが、相変わらず人の話を聞かない男である。
「おぬし、今までどこにおった? 狐目のところにも行ったが、あやつ口を割らん上に攻撃してきやがる」
「へぇ……(一体何したんだ秀元)。花開院当主に喧嘩売られても通う辺り酔狂な奴だな、お前」
「………ハァ」
 ぬらりひょんは、押し黙ったかと思うと人の顔を見て思いっきり溜息を吐いた。かなり失礼だろう。その態度は。
「俺帰りたいんだけど……」
「ダメじゃ。折角捕まえたのに、また雲隠れされては堪らん」
 子供みたいな事を言い始めたぬらりひょんに、藍は助けを求めようと辺りを見渡すが、皆一様にバッと目を反らされた。
「雲隠れって……あのなぁ、俺にも仕事があんのよ。公家の姫さんの護衛してるんだ。朝から晩までな。俺は、花開院邸の飯炊き係じゃねーぞ」
「公家と言っても沢山あるじゃろう。どこの姫じゃ」
 ぬらりひょんの問いかけに、藍の口元がヒクリと引きつった。
 原作では夫婦になるのが、現在の珱姫を奴の前に出せば速攻食われる。
「……死ねスケコマシ」
 ドゲシッとぬらりひょんの顔目掛けて千早の足技が炸裂する。
「うちの主に手ぇ出したら、速攻祢々切丸の餌食にしてやる」
 あえて珱姫の名前を出さなかったのは、ぬらりひょんに場所を突き止められては困るからだ。
 二年後には、京一の美姫と謳われ興味を持ったぬらりひょんが尋ねて珱姫と出会うことになるのだが、それまでに女癖の悪さを直させなければ安心して任せられない。
「帰る。……ああ、そうだ。後をつける真似をしようものなら、容赦なく叩き潰すからな」
 部屋を出る間際に一言釘を刺し、島原を後にした。後で知ったことだが、秀元から貰った袿には妖の攻撃無効化だけでなく気配を消す効果もあるらしい。

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