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act5 [ 5/7 ]


 ルークの秘預言まで一年を切った。良くも悪くも斜め45度方向に成長を遂げた彼は、キムラスカにとってなくてはならない存在へとなっていた。
 ルークがレプリカだということは、上層部は知っている。オリジナルは死んだとされているが、実際生きていることを知っているのは私とルーク、そして公爵夫妻にインゴベルト6世だけだ。
 公表することでルークの地位を確立し、かつオリジナルの存在を抹消させる意味も兼ねていた。
 彼らすれば、レプリカだろうと素晴らしい治政であれば文句はないのだ。
 オリジナルと比べ愛嬌があり愛想もよく驕らず賢いとなれば、どちらを選ぶか分かり切ったものだ。
 しかし、全く不満が上がらないわけではない。レプリカという特殊な出自で蔑む者は存在するのだ。
 生殖機能に問題があるのではと邪推する貴族も多い。ルークに対する悪意ある言葉や態度を取った者は須らく左遷されるのだが、アッシュの存在を嗅ぎつけて担ぎ上げないとも限らない。
 そうなってしまったら、折角私の計画した光源氏計画(仮)が台無しになってしまう。
 そんなことを悶々としながら考えていたら、
「どうしたんだナタリア? どこか具合でも悪いのか?」
と淹れたてのオレンジペコを差し出して問いかけてきた。
「体調はすこぶる良いですわ」
「そう見えないから言っているんだ」
 眉を顰め咎めるルークに、私は小さく肩を窄めて両手を上げて降参のポーズを取った。
 自我を持つ前から共に暮らし生活していただけあって、こういうところは目ざとい。
「まだ生まれて六年しか経たない貴方に酷なことをこれから私は強いるのです。憂いもします」
 私の言葉に、ルークも只事ではないと感じたのか背筋を伸ばし聞く体制を取っている。
「それが国の為になるなら喜んでするさ」
 オリジナルにはなかった国を案じる彼の言葉には偽りはない。王族は国民の為に生き国民の為に死ぬのだと洗脳をするかの如く教育した賜物だ。
「今回は、国の為と言うよりは貴方自身の為といえるでしょう」
 私の言葉は予想外だったのか、ルークは戸惑った表情を見せた。私は、溜息を一つ吐き言葉を綴った。
「貴方の出自を疎ましく思う輩がいるのは存じているでしょう」
「ああ、でもそれは何時ものことだろう」
「そうとは言い切れないのです。キムラスカ王家の正当な血筋は、陛下とシュザンヌ叔母様、そして貴方の三人。陛下も叔母様も年齢的に子を成すのは難しい。貴方が、キムラスカの未来を担っていると言っても過言ではありませんわ。ですが……レプリカと言うだけで生殖能力があるのか疑っている輩がいるのは事実です」
 言葉を濁す私の言わんとしている意図が読めたルークは、納得がいったのか自ら本題に切り込んだ。
「要するに子供を作れってことだろう」
「……言いにくいことをこうもあっさり口にされてしまいますと、わたくし居たたまれませんわ」
「相手は、勿論ナタリアだよな!」
 邪気のない笑顔を浮かべるルークに、私は顔を引き攣らせたのも無理からぬことだと主張したい。
 童貞相手に処女が性教育云々を指導するってどんな罠!? 痛いのは嫌だ!!
「ル、ルーク、まずは女性の体の仕組みを知る勉強から始まりますので王族御用達の高級娼婦が先生を務めて下さいますわ」
「何だよそれ。じゃあ、やらない」
 私の回答にへそを曲げた彼は、プイッとそっぽ向いている。
「そう申されましても、仕来りを破るわけには参りませんわ」
「じゃあ、ナタリアも一緒に学べばいい事だろう。俺の婚約者なんだし問題ない。叔父上にお願いしてくる!」
 嫌な風に自己完結した彼は、有言実行とばかりに部屋を飛び出していった。
 哀れ空しく宙をかいた私の手は、力をなくしてパタリとテーブルの上に落ちたのだった。
 嗚呼、誰か嘘だと言って頂戴……。

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