小説 | ナノ
act6 [ 6/7 ]
目の前の無邪気な子供は、人畜無害に見えて悪魔だ。
あっさりと許可を下ろした駄目父と叔父をギラリと恨みがましく睨み付ければ、サッと視線を逸らし無言を貫いている。
「ちゃんと許可貰ったぜ」
えっへんと胸を張って主張する姿は年相応に見えるのに、内容が十八禁なので頭が痛い。
このままだと、第三者に自分の痴態を晒すのかと思うと胃がキリキリする。
「……そう。分かりましたわ。お父様と叔父様が許可したと仰るなら、わたくしも腹を括りますわ。ええ、女に二言はありません。ルークと共に講義を受けますわ。でも、よろしいのですか?」
「え? 何が?」
含みを含んだ疑問にルークはキョトンとした顔で首を傾げている。
私は、眉を顰め溜息を一つ吐いた。勿論、演技だが七歳児は気付かない。
「わたくしの痴態をルーク以外が目にするのですわ。許容できますの?」
「指南してくれるのは、娼婦なんだろう?」
「さあ、どうでしたかしら。もしかしたら男娼かもしれませんわよ」
そんなわけあるか、心の中であっかんべーしながらツラツラと嘘を吐いた。
口を挟もうとしている馬鹿二人は、私の威嚇が籠った眼差しに完敗している為か無言を貫いている。
そのまま、一生無言でいてくれれば厄介ごとも減るだろうに実に惜しい。
「それはダメだ! ナタリアの痴態は俺だけが見ればいいの!!」
「じゃあ、わたくしは講義に参加いたしませんわ」
ルークの絶叫に私はニンマリと笑みを浮かべ、参加拒否を断言するとルークは暫く唸った後、仕方がないと頷いた。
私は、内心冷や汗を掻きながら最悪の事態を回避できたことに安堵の息を漏らした。
現実は、そうは問屋が卸さなかった。ルークが、一筋縄ではいかないのは知っていたのに気を抜き過ぎだ私!
「えっと……ルーク、こんな夜遅くに何かしら? もう寝ないと明日起きられませんわよ」
一緒の部屋で寝ているのだから不自然なことはないのに、ルークの雰囲気がいつもと違う気がすると私の中で警戒音がけたたましく鳴っている。
「俺一人で講義受けるけど復習は大切だ。だから、勉強の成果をナタリアに報告しないと上手くなったか分からないだろう」
だからじゃない! と怒鳴り返したかったが、寸前のところで言葉を飲み込んだ私は偉い。
「……初夜を迎える時の楽しみにしますわ」
「俺が待てないもん。最後までしないから、な? 良いだろう?」
ルークに耳と尻尾があったら、へにょりと垂れ下がっていることだろう。
お預けを食らいキュンキュン鳴く犬のようだ。ううっ、このオネダリモードに私が弱いことを知っていてやってくる辺り知恵がついた。
「うっ…うーん……」
なかなか返事をしない私に対し、ルークは今度はライガ・クイーンを引き合いに出してきた。
「クイーンが俺の子供産みたかったって言ったんだ。ナタリアは俺の子供産みたくないのか?」
「そんな訳ありませんわ!」
「じゃあ、良いよな」
「ええ」
「二言はないよな?」
「勿論ですわ」
「じゃあ、復習手伝ってくれる?」
「はい……ん? えっ、ちょっ……」
ルークの誘導にあっさりと引っ掛かった私は、勢いに任せて夜伽の復習を承諾してしまった。うっかり過ぎるぞ自分!!
「言質取ったからな」
がっくりとベッドの上で凹む私をルークはニンマリと笑みを浮かべていたのだった。
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