小説 | ナノ

act4 [ 4/7 ]


 ファブレ公の許可を得て数名の護衛と共にバチカルを飛び出したルークが、三ヶ月音信不通の後戻ってきた。要らぬ手土産まで持参してだ。
「……ルーク、これは一体どういう事なのかしら?」
 ヒクヒクと口の端が引き攣るのが止まらない。奴は、邪気のない笑みを浮かべて宣った。
「ライガー・クーンだ。すっげぇ別嬪だろう! 一目惚れしちまって、是非ともキムラスカへ来てもらおうと口説いたんだ」
 俺頑張ったんだぜと力説するルークに、私はブルブルと肩を震わせた。笑いでではない、怒りでだ。
「……ライガは、マルクトに生息する最上位魔物ですわ。ルーク、あなたベヒモスを調教しにいったのではなくて?」
 怒気を押し殺した私の声は、地を這うような低いものだっただろう。
 ルークの後ろに立っているジョゼット達の顔色は蒼を通して白い。漂白剤に漬けたタオルのように真っ白だ。私の怒り具合が如実に分かるのだろう。
「意思の疎通が出来なきゃ無意味だろう。ナタリアが、マルクトに言葉を喋る魔物がいるって言ってたから探しに行ったんだぜ。そこでクイーンと知り合ったんだ。チーグルに住処燃やされちまって行き場を失ってたし、丁度良いと思ってナンパしてみた」
 テヘッと可愛らしく笑って誤魔化そうとするルークに、特大の雷が落ちた。落としたのは、勿論私である。
「敵国に乗り込んで貴方の身に何かあったらどうするつもりですのっ!! 今日という今日は許しません! お説教部屋行ですわっ」
 パチンッと指を鳴らすと、私に仕えるメイド達が音を立てることなく颯爽と現れルークの腕を掴むとズルズルと説教部屋へ連行していった。
 残ったジョゼット達に向き直り、労いの言葉を掛けた。
「皆、無事に戻りました。ご苦労様です」
「いえ、勿体ないお言葉です」
「今回の旅は、ルークにとっても良い経験が出来たでしょう。彼がバチカルを離れることは本来なら許されぬことですから。まさか、マルクトに行っているとは思ってもみませんでしたが」
 本当予想外にもほどがある。しかも魔物なんて土産を用意してくれちゃう辺り胃が痛い。
 誰もかれもがルークに甘いので、結局彼の好きなようにさせている現状に、私は大きな溜息を一つ吐いた。
「ライガ・クイーンと申しましたわね。ルークが惚れるくらい美しく聡明な目をしてますわ」
 ワインレッドを思わせる美しい毛並は見事で見惚れていると、彼女はフンフンと私の匂いを嗅いだ後、大きな巨体をゆっくりと折り曲げた。
 まるで私と視線を合わせようとするかのような仕草に、自然と笑みが零れ落ちた。
「ようこそ、バチカルへ。わたくしは、貴女たちを歓迎しますわ」
 私の言葉に応えるかのように、彼女はガウッと咆哮を上げた。
「ジョゼット、他のライガ達はどこにいるのかしら?」
「既にイスタニア湿原へ移動し一帯を掌握していることでしょう」
「……。クイーンが居なくても大丈夫なのものでしょうか?」
「新たに若きクイーンが、ライガの群れを統率しておりますので問題はないかと」
「……」
 なにそれ、クイーンはルークに輿入れしたってこと? 絶句する私に、ジョゼット達は慣れているのか驚いた様子もなく淡々と状況を説明している。
 魔物を嫁にしたルークが異常なのか、それとも規格外なのか、計り知れない思考回路に私は頭を抱えるほかなかった。

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