小説 | ナノ

act3 [ 3/7 ]


 ルークの世話は、私にに一任されている。
 皇女が子育てをするなんてという声もあったが、私は『だから能無し王侯貴族が出来るのだ』と切って捨てたのは良い思い出である。
「なたりあー、これよんでぇ」
 両手に抱きかかえられた絵本を差し出してくるルークに、私は困った笑みを浮かべた。
 私の手にあるのは、大切な議題が纏められた書類だ。そう、私は執務真っ最中なのだ。
「ルーク、ごめんなさい。わたくしは、今お仕事で手が離せないの」
 そう言うと、ルークはガーンッと酷くショックを受けたような表情を浮かべた。
「なたりたは、いつもそういってルーとおはなししてくれない。ルーのこときらいなんだ……」
 ボロボロと涙を零す姿に、罪悪感が沸き起こる。私の傍で控えていたメイドも、厳しい目つきで私を見ている。
 王宮全体が『ルークLOVE』になりつつあるせいか、私の立場は弱い。
「姫、急ぎの書類はありません。少し休憩をなさっては如何ですか」
 手帳をパラパラと開いて私のスケジュールを確認しながら提案という名の強制に私は大きな溜息を一つ吐いた。
「……そうね。ルーク、一冊だけよ。後は、夜にお話ししてあげる」
「うん!」
 ニパァッと泣いたカラスがもう笑っている。あのね、と言いながら絵本を手渡し私の膝に座るルークを後ろから抱きしめながら絵本を読み始めたのだった。


 ルークの成長速度は速く、四年もすると外見年齢に合わせた言動をするように心がけるようになった。
 私の執務室に入り浸るのはいつもの事だが、彼の突拍子もない指摘がキムラスカ経済を良い感じに動かしていることを彼は知らない。
「そう言えば、イスタニア湿原の開拓案はどうなった?」
「順調と云いたいのですが、あの辺りにはベヒモスが生息しているようで何とかしないことには次の段階に進めそうにもないですわ」
「そっか。討伐隊を組んで殲滅させるか?」
「そうすると食物連鎖に影響が出てしまいますわ。どうせなら、下僕にするのが宜しいかと。人語を理解する魔物がマルクトに生息しているらしいと聞きますし」
「へぇ、そんな魔物がいるんだ。俺的には、ベヒモスとガチンコ勝負してみたい」
 どこの戦闘狂だ。そう云えば、バチカル闘技場でセシル大佐とタッグを組んで乗り込んでいたな。
「……バチカル闘技場で我慢して下さい」
「俺、優勝の常連だぜ。もっと強い奴と戦いたい。最近、骨のある奴が居なくてつまんねーもん」
 ぷくぅと頬を膨らませて拗ねるルークに、私は育て方を誤ってしまったと頭を抱えた。
 ルークは体力作りと称し一通り叩き込まれた武術の中で一番相性が良かったのが剣術だ。次点で体術。四歳でマスターランク。末恐ろしい。
「だからと言って許可できる内容ではありませんわ。100%ベヒモスを下僕にできると言い切れますの?」
 無理だろうがとルークを睨み付けると、彼はシュンッとした気落ちしたように肩を落としたのだった。
 私は彼を見て漸く諦めたかと思っていたのだが、ルークはすんなり云う事を聞く良い子な性格はしていなかった。
 後日一枚の書置き(公爵の了承サイン入り)を残し、セシル大佐を含めた近衛兵と白光騎士団の精鋭を引き連れマルクトへ旅立っていた。
「ルークゥゥゥウッ!!」
 私の怒声が王宮に響いたのは言うまでもなかった。

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