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導師守役の嘆きA [ 9/10 ]


 朝一で到着した伝書鳩に括り付けられた手紙を読んだピオニーが、『ジェイドォォォオッ!!』と怒声を上げながら発狂していた頃、私たちはダアト一の不肖兄妹の片割れティア・グランツがキムラスカの王族らしき人物と共に森へ入っていったところを見かけ彼らの後を追いかけていた。
 しかも、ティアの方は軍服を着ていたという嫌なオチに頭痛がした。
「アニス、僕はあの馬鹿女を懲戒免職で解雇したはずなんですが」
「ええ、直接解雇通達をされてましたものね」
「軍服を着ていたように見えたのですが」
「見間違いではありません。隣に居たのは、恐らくファブレ公爵子息ではないかと」
「……」
「……」
 私の断定的な言葉に、ヴォルヴァはガクッと肩を落とした。
 それでも足を止めず早歩きしている辺り、相当焦っているのがよく分かる。
「導師、これはチャンスです。髭と豚もろとも公に罰せることができ、尚且つクビを切れます」
「(物理的に)首を切れるんですね!」
 若干ニュアンスが異なるが、概ね間違っていないので私はコクリと頷くと彼はパァッと嬉しそうな笑みを浮かべている。相当奴らが嫌いらしい。
「まずは、ティアを拘束して公爵子息に事情を聴きましょう」
 あんまり良い状況ではなさそうだと感が告げるも、放置したらそれはそれで大問題に発展しそうだ。
「この辺りの魔物は、比較的弱いのが幸いでした。本当は安全なところに居て頂きたいのですが、そんなことを言ってる場合ではありませんし」
 あの糞眼鏡が誘拐しなければヴォルヴァを危険に晒すことはなかったのにと悔し気に愚痴を零せば、
「あそこに居たら、今以上に危険ですから」
と良い笑顔で返してくれた。
「私の傍を離れないで下さいね」
 私は、譜銃を両手に持ちつつヴォルヴァの前を警戒するように歩いた。後方からの脅威を減らす為に、ディスト作自立稼働式人形トクナガを配置しておくことも忘れない。


 森を進むこと数十分、漸く彼らに追いついた。見ると、ルークの方は所々怪我を負っているではないか。
「アニス」
「はい。ティア・グランツ、その方から離れなさい!」
「グランツ? お前、ヴァン師匠の妹なのか!? つか、何で妹が師匠を殺そうとするんだよっ」
 私は、ルークを背中に隠すように立ちティアに向かって譜銃を向ける。発砲はしないが、いつでも撃てるように安全装置を外しておくのは忘れない。
 私とティアの会話に、ルークは新たな事実を知ったことに大層驚き声を張り上げているが今はスルーだ。
「ちょっ、何するの? 私が何をしたと言うのよ!」
「既に何かした後でしょう。神託の盾騎士団から懲戒免職になった貴女が、何故軍服を着ているのかしら」
 私の言葉に、ティアは顔を真っ赤にして喚き出した。甲高い声は、癇に障る。
「失礼なこと言わないで!! 私は、懲戒免職になんかなってないわ。現に、モースから任務を賜っているもの」
「テメェ、俺を送り届けるとか言ったくせに! 道を間違えたって言ったのも嘘だっていうのか?」
「ルークは、黙ってて!」
 私は、容赦なくティアの手に向かって発砲した。威嚇発砲ではなく、彼女を狙ってだ。
「貴様が黙れ、ティア・グランツ。それ以上その喧しい口を開くな。動くな。不審な行動を起こしてみろ。即射殺する」
 無表情で死の宣告を下せば、ティアは息を飲み口を噤んだ。ティアの動きを止めた私は、罪人用の手錠をティアに掛けた。勿論、後ろ手でだ。
「譜歌を歌われては厄介です。喉を潰した方が良いでしょう」
「先ほどの手錠は、一切の譜術を封じるものです。いくら譜歌を歌ったところで只の歌でしかありません。が、あの非常識極まりない馬鹿な発言を聞かされるのは苦痛ですね。この場で射殺しますか?」
 物騒なやり取りを聞いていたルークが、顔を真っ青にしながら割り込んできた。
「ちょっと待てよ! 何も殺すことないだろう」
 ヴォルヴァは、ルークの反応にパチパチと瞬きを繰り返しティアには見せない優しい笑みを浮かべた。
「お優しいんですね」
「そ、そんなことねぇよ! それより、お前ら何なんだ?」
 顔を真っ赤にしながらぶっきらぼうに返す彼を見て、被験者のアッシュと大違いだと感慨深く思っていた。
「失礼しました。ご挨拶が遅れましたね。私は、ローレライ教団で導師をしています。イオンです。彼女は、僕の護衛をしているアニスです。貴方は、ルーク・フォン・ファブレ殿で間違いありませんか?」
「おう! 導師イオンって言ったら、行方不明になっているって聞いたぞ。何でこんなところに居るんだよ。お蔭で師匠は、お前の捜索するっつってダアトへ帰っちまうし」
 ブチブチと文句を垂れるルークに対し、ヴォルヴァの機嫌は急降下している。
 導師が行方不明になって呑気にキムラスカへ入り浸っているヴァンに対する怒りなのは分かるが、もう少し殺気を緩めてほしい。ルークもその異様な空気にビビっているではないか。
「実は、私達も誘拐されたのです。今は、隙をついて逃げてきたのですが……」
「そうだったんだ……。大変だったんだな」
 悲しそうな顔を作り切々と身の上話を始めるヴォルヴァに、ルークは心底同情をしていた。
 どうしてこんなに黒くなったんだろう。教団から連れ出されてから日を追うごとにビカビカと黒光りするようになった気がする。
「ところでルーク殿、何故ティアと一緒に行動を共にしているのでしょうか? ティアが、ヴァンを殺そうとしたと云うのも気になります。教えて頂けませんか?」
「その女が、眠りの譜歌を使って俺の家を襲撃したんだ。丁度、中庭で剣術稽古していた最中にヴァン師匠を狙って屋根から降ってきて……。ヴァン師匠を助けようと割って入ったら邪魔するなって怒鳴られたんだ。その時、その女が持っていたロッドと俺の竹刀が合わさって疑似超振動が起こってマルクトまで飛ばされた」
 ヴォルヴァにティアがルークを誘拐しているかもと情報を与えていたが、その経緯までは言えなかった為伏せていたが、許容範囲を大幅に超えてしまったようで今にも倒れそうだ。
「ルーク様、申し訳ありません。我が同朋の不始末。深くお詫び致します」
 地面に頭を擦り付けながら土下座する私を見たイオンも土下座しようと膝をつこうとしている。
「止めろよ。悪いのは、この女でお前らは悪くないだろう」
 ルークは、ヴォルヴァの腕を掴み立たせる。土下座している私にも立つようにと言った。
「ティア・グランツが仕出かしたことは、明らかに第一級凶悪犯罪です。ダアトが、キムラスカに敵対行動をしたと取られてもおかしくありません。しかも、懲戒免職にしたはずがヴァンかモースの手で再雇用されているとなれば……」
 ヴォルヴァは言葉を濁し唸った。教団は関係ありませんとは言えないだろうなぁと思いつつ、私は痛む頭を押さえながら苛立ちを紛らわせるためにティアの背中を蹴り飛ばした。
「ルーク様の御身は、この身に代えても傷一つなくキムラスカへ送り届けます。ダアトに不審をお持ちなのは重々承知しておりますが、ここは私共に送らせて頂けませんでしょうか?」
 こうなったら予定変更である。ルークを連れて謝罪しに行くしかない!
 キムラスカからルークの保護要請がマルクト側に出ているだろう。ジェイドを出し抜きグランコクマへ行くのは骨が折れるだろうが、四の五の言っている場合ではなさそうだ。

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