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導師守役の嘆き@ [ 8/10 ]


 エンゲーブに着き、ヴォルヴァは上手い具合にジェイドに絡んでいた。
 ジェイドの意識がヴォルヴァに向いているのを確認し、私は伝書鳩を扱っている村長の家へと向かった。
 ローズ夫人に事情を説明し、協力を取付けると一番早い鳩を借りグランコクマとダアトへ鳩を飛ばした。
 エンゲーブからグランコクマまでなら一日で着くだろう。ダアトはもう少し掛かるだろうが、こちらの足取りが掴めれば良い。
 用も済んだことだしヴォルヴァの元へ戻ろうかと思った矢先、ふらふらと歩いている彼を発見し米神に青筋が浮かんだ。
「導師、何をなさっているのですか」
「ジェイドが、ここの村長と大切な話をするので席を外すように言われまして。まさか、護衛もなしに放り出されるとは思いませんでした」
 ハッハッハと爽やかに笑うヴォルヴァの顔が怖い。全然目が笑っていない。
 ジェイドの行動は、相当腹に据えかねているようだ。
「貴方を一人にしてしまい申し訳ありません」
「構いません。私が、良いと許可をしたのです」
 そうしないとダアトと連絡すら取れない状態にあるのだからと、彼が含みを持った笑みを浮かべて言うので私は小さく肩を竦めた。
「町長のローズ夫人には、一足先に事情を話し協力を要請しました。彼らが数日足止めしてくれるでしょう。それまでに、ピオニー陛下が動いて下されば良いのですが……」
 ジェイドを和平の使者にするくらいだ。真性の愚帝でなければ良いな。
「動かすでしょう、シンクが。今頃、ピオニー陛下のところへ押しかけて脅しを掛けている頃でしょうね。楽しみですね」
 フフフと不敵に笑うところは、オリジナルと瓜二つである。そんな事を口にしたら、それこそ不貞腐れて暫く口を聞いて貰えなくなるだろう。
「でも、まあ折角外出していますから色々回ってみませんか?」
「はい! 楽しみです」
 外見年齢よりも幼い笑みを浮かべるイオンに手を差し伸べると、彼は嬉しそうに手を掴んできた。
 私は、社会科見学と称してエンゲーブ内を見て回ることにしたのだった。


 ヴォルヴァ達がエンゲーブでまったりしている頃、シンクはアリエッタと共に首都グランコクマの王宮でピオニーに詰め寄っていた。
「突然の謁見、許可して頂きありがとう御座います。時間が惜しいので短刀直入に申し上げます」
 そう言葉を切ったシンクは、ギロッとピオニーを睨み付けた。十分不敬なことなのだが、恐ろしいくらいの威圧感に睨まれた当人も、後ろに控えていた将軍たちも息を飲んだ。
「ジェイド・カーティスと思われる軍人が、『大詠師モースにより導師イオンが監禁されている』という偽情報を流し民を先導し暴動を起こしました。混乱に乗じて導師の執務室に押しかけ導師イオンと導師守役の一人を誘拐致しました。その際に、護衛に当たっていた兵や導師守役の計6名が死亡・15名が重軽傷を負っています。これら一連のジェイド・カーティスの行動は、マルクト総意と判断して宜しいか?」
 朗々と語られるジェイドが引き起こした悪行の数々に、ピオニーは内心冷や汗を掻いた。
 あの男のことだ。絶対ないと言い切れないほど、マルクト軍内でも問題行動を取る男だというのは承知していたが、これほどとは思いもよらなかった。
「ジェイドという証拠はあるのか」
「青い軍服に長身、くすんだ金髪で肩より長い。瞳は赤く、眼鏡を掛けており、槍を自在に出し入れしていたと報告が上がっています」
 苦し紛れで言った言葉も、シンクはジェイドの容姿を言い当て逆にピオニーを追い詰めていた。
「ジェイド・カーティスの身柄の拘束および引き渡しを要求します」
「ああ、分かった。ジェイドの居場所を特定次第引き渡そう。今回、被害に遭った方へ賠償させて欲しい」
「ありがとう御座います。それについては、導師が戻り次第追って連絡させて頂きます」
 賠償が導師も含まれているとなると、マルクトは高額の賠償金を支払することになるだろうが、ジェイドの行動がピオニーに更なる追い打ちを掛ける事になるのだが、この時知る由もなかった。

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