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導師守役の失態@ [ 6/10 ]


 レプリカ・イオンことヴォルヴァが生まれてから2年が経過した。日に日にオリジナル・イオンに似通った性格に成りつつあるのは何故だろう。
「……教育方針をどこで誤った?」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も。それより、今日は、外が騒がしいですね」
 私の呟きは小さすぎたのかヴォルヴァには聞き取れなかったようで笑って誤魔化すと、彼は首を傾げ訝しんだものの追求はしてこなかった。
「確かに何かあったのでしょうか?」
 導師の部屋は、分かりづらい上に奥まったところにある。故に喧騒と無縁の環境なのだが、今日はやたらと騒がしい気がする。
「何かあれば知らせに来るでしょうが……。念には念を入れて、移動して様子を見ましょう」
「分かりました」
 私の忠告にヴォルヴァは、神妙に頷き腰を上げた時だった。
「それだと困るんですよねぇ〜。初めまして導師イオン、私はマルクト帝国軍第三師団長ジェイド・カーティス大佐です。以後お見知りおきを」
 突如ドアが開いたかと思うと、青い軍服に身を包んだ男が眼鏡を押し上げ不適に笑っていた。
 ヴォルヴァを背中に隠し譜銃の銃口を賊に向けながら問うた。
「ここは、導師の執務室だ! 部外者が、おいそれと立ち入ってよい場所ではない」
「こちらにも色々事情があるのですよ。導師イオン、私と共に来て下さい」
 どこから取り出したのか槍を私達に突きつけながら、一方的な要求をする男の言葉は聞くに堪えなかった。
「……何故です?」
 感情を押し殺した声が、背中越しにする。ヴォルヴァの怒り具合が良く分かる。
「私は、陛下より極秘任務を受けて行動しています。その任務を成功させるには、導師の力が必要なんですよ」
「協力を要請するならば、しかるべき手順を踏みなさい。アニス、今日のスケージュールでマルクト軍人との謁見なんてありましたか?」
「ありません」
 額に青筋を浮かばせながら門前払いしようとするヴォルヴァに痺れを切らしたジェイドは、わざとらしい溜息を一つ吐き聞き分けの悪い子供を馬鹿にするかのように言った。
「聡明と聞いていた割に我侭な子供ですねぇ。手間を取らせないで下さい」
 ポケットから取り出した小型スプレー缶を私達に向けて噴射した。薄れ行く景色の中で見たものは、ジェイドが部下に導師誘拐の支持を出す姿だった。


 目を覚ますと、簡素なベッドに寝かされていた。部屋の向こうに人の気配を感じ息をひそめる。
 周囲を見渡すと同じベッドにヴォルヴァが寝かされている。私の二丁拳銃は危険と判断されたのか、取り上げられ手元にはない。
 足音を立てないよう立ち上がり部屋の中を確認した。神託の盾と大差ない質素な室内だったが、それもそのはず私たちがいる場所は軍艦の中だった。
 はめ殺し窓から見えた景色がそれを物語っている。
「……んっ…アニス?」
 目を覚ましたヴォルヴァに、私はホッと安堵した。
「お加減は如何ですか?」
「少し頭がくらくらしますが、大丈夫です」
「念のためグミを召し上がって下さい」
 レモングミを差し出すと、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべた後、小さく頷きそれを口に含んだ。
「ありがとう、アニス」
「いえ。導師、現状を報告致します。我々は、今マルクトの軍艦に連れ込まれ移動している模様です。最終目的地はキムラスカでしょうが、どのルートを辿っているかは分かりません」
「この状況下で動くのは得策ではありません。機を見て脱出する手立てを探りましょう」
 ニッコリと笑みを浮かべながらマルクトへ報復する算段を練るヴォルヴァは、ますますオリジナルに似てきたと思ったのはここだけの話である。

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