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導師守役の憂鬱D [ 5/10 ]


 ヴォルヴァの謝罪で事なきを得たが、ティア・グランツは教団を追放され、ヴァンとモースは監督不行き届きで減俸処分、ティアの養父も同様だ。
 私の入れ知恵もあったが、ツートップの馬鹿共が長期で教団を空けたから出来たと言えるだろう。
 ざまあみろと内心せせら笑いながら随分と過ごしやすくなったと思っていたら嵐はやってきた。
 とある日、ヘビモス討伐から戻ってきたヴァンが一人の少年とアリエッタを連れ帰ってきた。
「ヴァン、彼らは?」
「ヘビモスを討伐していた時に出会いましてな。彼の名はシンク、顔に酷いやけどを負っているため仮面を着けさせております。平にご容赦を。彼女は、アリエッタ。元導師守役をしていたが、半年前に行方知れずだったのをシンクと一緒にいるのを見つけて連れ帰った次第です」
 呆気に取られたのはヴォルヴァだけでなく、私も同様で言葉が出なかった。
 目の前にいる少年は、十中八九オリジナル・イオンだろう。何だってイニスタ湿原でフラフラしているのだ。
「入団の希望されているのですか?」
「はい」
「……」
「まずは適正検査を受けて下さい。それからです。アリエッタは、今まで姿を消していた経緯を聞かせて頂きます。ヴァン、執務がありますから出て行って下さい」
 にこやかに、でも有無を言わさずヴァンを追い払うヴォルヴァに私は気付かれないように溜息を漏らした。
「あ、あの……」
「こんな形で会うとは思わなかったわ。お帰りなさいアリエッタ」
「ただいまです」
 お帰りと声を掛けると、アリエッタはホッと安堵したように笑みを浮かべた。
「貴方は、オリジナル・イオンですか?」
「それが何か?」
 嫣然と笑みを浮かべるヴォルヴァに、負けじと殺気混じりの笑みを浮かべるイオン。それを見たアリエッタはヒッと悲鳴を上げている。本能で逆らってはいけないことを悟っているのだろう。
 その危機感は強ち外れてはいない。野生の感って侮れないなと感心していたら、ヴォルヴァが毒吐いた。
「今更、何の用があって教団に戻ってきたんだ」
「アニスを手に入れるために戻ってきただけだ」
「何ですかそれ」
 イオンの言葉に呆れる私と対照的にヴォルヴァは怒り狂っている。
「アニスは、私のものです。オリジナルだろうと関係ありません」
 アリエッタは、困惑気味に私の顔を見て助けを求めてくる。私を見られても困る。
「私は私のものです。大体、貴方にはアリエッタがいるでしょう。私は関係ありません」
「イオン様、アニスは情愛だけどアリエッタは親愛だって言ったです。イオン様の番だからアニス交尾したです。違うですか?」
 何暴露してんだこの野郎とイオンを睨むと彼は事実だろうと宣った。
「アニス、彼と恋仲だったんですか?」
「おぞましいことを言わないで下さい。パワハラとセクハラに屈しただけです」
「身体の相性は最高だったよね」
 羨ましいだろうと言わんばかりのイオンの態度に、ヴォルヴァの怒りゲージメータが振り切れた。
「貴方の入団は断固認めません! 出て行きなさい!!」
「別にお前に認められなくとも、髭が人事部に掛け合って就労許可は下りている。残念だったな」
 一枚も二枚も上手なイオンに、高々1年も満たないヴォルヴァが勝てるわけも無く、シンクと名を変えた彼は堂々と教団に居座り私にちょっかいを掛けるようになった。
 顔を会わせれば一触即発のいがみ合いに発展するのに、時折意気投合したかのようにヴァンとモースが彼らのストレス発散の的となり、今日も今日とて野太い悲鳴が上がった。
―完―

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