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61.被害者から見た加害者その1 [ 62/72 ]



 ファブレ邸を襲撃した女は、色んな意味で有得なかった。
 その日、ヴァン・グランツが先触れもなく押し掛けてきて公爵子息に対し上から目線で稽古をつけてやろうとほざいていルーク様の機嫌を損ねたのは至極当たり前の流れといえるだろう。
 無礼極まりないヴァンの態度に、彼が嫌そうに顔を顰めたのは云うまでもなく適当な断り文句を並べ立てて追い返そうとしたが、あまりのしつこさに根負けして適当にヴァンの稽古に付き合ったのはお気の毒としか言いようがない。
 時々、ルーク様が偶然を狙ってヴァンの急所を突いて甚振っているのを見るともっとやれと心の中で声援を送っていたのは自分だけではないはずだ。
 ルーク様の稽古を椅子に座って見ているガイ・セシルを見つけ、またかと溜息が漏れた。
 何度注意しても同じ事を繰り返すガイを公爵は何故雇い続けるのか不思議でならない。
 今日も変わり映えなく一日が過ぎていくのだと思っていたら、どこからか聞こえてきた歌声に私は不覚にも意識を奪われたのだった。
 最後に聞いたのは、『裏切り者のヴァンデスデルカ』という言葉。
 そして目を覚ました時は既に遅く、ルーク様は侵入したヴァン・グランツの妹に連れ去られた後だった。


 襲撃した女は、ティア・グランツと言いヴァンの実妹だと言う。
 ティアの所業に謝罪するわけでもなく、ヴァンはルーク様を自ら探してくると宣った。
 その厚顔無恥っぷりに血管が切れそうになるのを必死で堪え、押し殺した声でヴァンを責める。
「お前の妹は、神託の盾の軍服を着用しがファブレを襲撃した。明らかにダアトがキムラスカへ敵対行動だ。擬似超振動でマルクトに飛ばされた今、捜索もままならない。万が一、ルーク様の身に何かあったとき、どう責任を取るというのだ!!」
「決して敵対行動ではない。ティアも勘違いしているのだ。ルークのことは、私が責任持って連れて帰る。だから……」
 口を開けば言い訳ばかりのヴァンに、堪忍袋の緒がブチッと音を立てて切れたのをどこか他人事のように聞こえた。
「ぬけぬけとそのような戯言をほざくのも大概にして貰おう! 先触れもなく突然押しかけてきた挙句、身内の者による襲撃と誘拐に謝罪することも悪びれないその態度もうんざりだ。申し開きは冷たい牢獄で聞かせてもらう。捕えよ!!」
 多少の抵抗はあったものの、力尽くで捩じ伏せて牢屋へと連行した。
 不意を突かれたとはいえ、誘拐犯の侵入を許してしまった以上は死を覚悟するべきだろう。
 仕えている主の子息をむざむざと誘拐されてしまったのだから、良くてバチカル追放。最悪は、死刑になるだろう。
 重い溜息を吐き、私は主にこのことを報告するべく城へと向かったのだった。

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