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62.被害者から見た加害者その2 [ 63/72 ]


 無事ルーク様が屋敷に戻られた。その時、屋敷を襲撃した女ものうのうとファブレの敷居を跨いでいる姿を見た時は腸が煮えくり返り罵声を浴びせそうになった。
 ルーク様が戻られたのは喜ばしいことだが、誘拐されたあの日、勤務していた者たちに罰が下る。
 良くて解雇の上バチカル追放、悪くて斬首。果たしてどちらになるだろうか。
 悶々とそんなことを考え日々を過ごしていたら、ルーク様がアクゼリュスへ親善大使として赴くこととなった。
 そして私たちの処罰も決まった。親善大使一行として同行し、ルーク様のお世話をすることだった。
 そこにティア・グランツも立っていたが、公爵曰く『メシュティアリカ姫』であり別人だと云う。
 何故あの女を庇うのかと思ったものだが、その理由はアクゼリュスへ行く道中で分かった。
 旅の初っ端から邪魔が入り、立ちはだかる神託の盾騎士を排除する作戦を立てたのも彼女だった。
 被害は最小限に効果は最大限発揮させ見事敵を看破したのだった。
 死者0人、負傷者108人。その全てが軽傷で、船の損傷もほとんど無かったという。
 ルーク様の初陣は大勝利に終わり『戦神』の異名を取るが、作戦を立てたのも実行したのもあの女だった。
 その後も、行く先々でトラブルが続きその都度、あの女が機転を利かせ対処していたというが信じられない。
 彼女に心酔する白光騎士の連中やマルクトの兵を見る度に、あの女狐に騙されているのだと声を大にして言いたかった。


 カイツールに着き、直ぐにアクゼリュスへ向かうのだと誰もが思っていただろう。
 あの女は、私たちを一カ所に集めて言った。
「これから向かうアクゼリュスは、瘴気に満ちています。瘴気対策としてルーク隊の皆さんには、ユリアの譜歌の一つであるフォースフィールドをマスターして頂きました。シンク隊、フリングス隊の皆さんにも覚えて頂きます。誰一人欠けることなく行って帰ってきましょう」
 譜歌で瘴気をどうこうできるものかと侮っていた私だったが、それが間違いだと気付いたのはデオ峠に差し掛かってからだった。
 前日に配布された装備品の中には、高価なアイテムが沢山入っていた。リバースドールが入っていたのには驚いた。
「これから死に行く人間に、こんなものを渡すなんて馬鹿じゃないの」
 イライラを吐き捨てるように言葉に出したら、それを聞いていたルーク様が困ったような表情を浮かべて言った。
「ティアはさ、本気で全員生きて戻るつもりだぜ。ユリアの譜歌は一子相伝で、ティアの一族しか知らないらしい。それを敢えて他人に教えるのって勇気がいると思う」
「……」
「ティアを見てやってくれないか。今は許せない気持ちが今は大きいかもしれないけど、誰よりも皆の無事を願ってるのもあいつなんだ」
 ルーク様は、咎めるわけでもなくあの女を見てほしいと懇願した。私は、何もいう事が出来ず彼から目を逸らし無言を貫いたのだった。


 アクゼリュスに到着した時には、既に救助活動は終わっていた。これもあの女の指示だと言う。
 ファブレが所有しているコーラル城を改装しながら、アクゼリュスの民を収容していた。
 アクゼリュスの民は、衣食住が保障されかつ医療も無償で手厚い看護を受けていたことには驚いた。
 衣類や生活用品は、世界各国で寄付という形で使わなくなった物を譲り受け集めたものをコーラル城へと搬送しているではないか。
 食料や医療費はティアのポケットマネーと彼女を信奉する者たちによる寄付で成り立っているという。
 確かにアクゼリュスはマルクトの領土だ。でも、十数年前まではキムラスカの領土で彼らはキムラスカの民だった。
 何故そこまでするのだろう。もし、キムラスカで同じことが起こったとしてもここまで手厚い処置をしてくれないと断言できる。
 モヤモヤした気持ちを抱えながら私は、あの女に疑問をぶつけることにしたのだった。
 いつもルーク様と寝食を共にしているあの女は、部屋数が少ないという理由で部屋の用意を辞退しテントで過ごしていた。
「メシュティアリカ姫、少し宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
 入室を許可する返事を受け、私はテントの中へと入った。
「サリーさん、何か問題でもありましたか?」
 相手が私の名前と顔を把握しているなど思ってもみなかったので、私は今酷く驚いた顔をしているだろう。
「いえ、問題はありません」
「個人的な用事なのね。OK、OK。あ、そこ座って。今、お茶を入れるわ」
 プライベートだと判断した彼女は、言葉を崩し簡易の椅子を私に勧めた。ポットにお水を入れると仔チーグルに向かって炎を吐けと言った。
「ミュゥゥウウッ」
 炎を吐かせること1分。良い具合に沸騰した湯に茶葉を投入し蒸らしている間、茶菓子を頬張る姿は育ちが良いとは良い難かった。
「サリーさんもどうぞ」
「私は結構です。それよりも聞きたいことがあります」
「何かしら?」
 瞬きを数回繰り返し意外と言わんばかりの表情を浮かべた後、彼女は背筋を正し話をする体制を取った。
「美味しいのに……。それで、私に何が聞きたいの?」
「貴女は、何がしたいんですか? 旦那様やルーク様にどうやって取り入ったのか知りませんが、貴女がファブレをしゅ……」
 襲撃したと言おうとしたところで、ティアの手で遮られた。
「私はメシュティアリカなの。謝罪したい人が居ても、私の立場上許されない。貴女が真実を主張してもキムラスカはそれを握り潰すわ」
「だからって許されると思っているの!」
「許されたら地獄なんて要らないわよ。死んだら絶対地獄行きだと確信しているし、私。それに私は祖先の尻拭いをしているだけよ。そう遠くない未来に分かるわ。それに今話しても聞く気ないでしょう」
「逃げるんですか?」
「さあ。そう思うのならそうなんじゃない? 憎悪しかない貴女に話したところで冷静な判断が出来るとは思わないもの」
 その時は何て傲慢なのだろうと思ったのだが、彼女がしたかったことが世界の存亡に繋がっていると知るのは数か月後のことだった。

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