小説 | ナノ

初代|切欠は貴方I [ 15/145 ]


 喜んだのも束の間、清継が取っていた部屋は長期滞在をメインとしたもので、食事は自炊というものだった。
「ちょっとでもアンタを見直した私が馬鹿だったぁああ!!」
 キーッと発狂する巻に、カナがボソッと呟いた。
「どうせ、こんなことだろうと思ったわよ」
 そこに込められた禍々しい思いに、私は苦笑いを浮かべる。
「そのために、佐久穂さんを呼んだんじゃないか! 食事は、君に任せたよ」
「わ、私がですか?」
 急に振られた私は、呆気に取られる。タダほど怖いものはないと思っていたが、無理矢理に近い参加でこんなことになろうとは誰が思うだろう。
「佐久穂ちゃんの手料理が食べられるのは、悪くは無いね」
「せやね、佐久穂の作るお弁当は美味しいし。期待してるで」
 にこやかに笑みを浮かべるカナとゆらに、私は顔を引きつらせる。この二人、手伝う気皆無だ。
 島、鳥居、巻はワクワクしているし、清継は論外。それが当然だとばかりの態度だ。
 リクオと倉田は、申し訳なさそうな顔をしている。うん、男の子だもん。
 料理が出来なくても仕方がないかな。頼みの綱は氷麗だけなのだが、ちらりと彼女の方を見るとこれまた良い笑顔をして宣った。
「佐久穂、頑張ってね!」
 期待を込められた眼差しに勝てるわけもなく、私は泣く泣く料理を担当することとなったのだった。


 流石に着いたその日から食事の支度はあんまりだと女子一同の意見もあり、私が食事を用意するのは明日以降となった。
「あ、忘れてた」
 荷物を置いた私は、ぬらりひょんとの約束を思い出し携帯を取出した。
「ちょっと、電話してくるね」
 カナたちに一言断り、私は外に出る。人に会話の内容を聞かれるのはやっぱり恥ずかしい。
 短縮ダイヤル1を押し発信すると、数コールの後にぬらりひょんが出た。
「もしもし、佐久穂です」
『無事に着いたか?』
「はい、着きました。これから昼食なのであまりお話できないです」
『そうかい。じゃあ、夜は期待してる』
 ぬらりひょんの艶のある低い声に、私は顔を真っ赤にし言葉に詰まる。
 声だけで色気を感じるなんてずるい。
「っ〜〜〜。お夕飯は、冷凍庫の中にあるので好きなの食べて下さい」
 平常心と言い聞かせながら夕飯のことを伝えると、
『佐久穂が、居ねぇのに一人で食っても仕方がないと思わないかい』
と言われた。
「一人で食べるのは、寂しいですよね。あ、でも量は多めに作ってあるので部下の方と一緒に食べたらどうですか?」
 そう提案したら、思いっきり溜息を吐かれた。何か変なことを言っただろうか?
『阿呆、あいつらの面を見ながら食べたらいつもと同じじゃねーか。ワシは、アンタと一緒に食べたいんじゃ。それくらい分かれ』
 ぬらりひょんにその気はないのだろうが、口説かれている気分になる。
「……じゃあ、帰ったら一緒に食べましょうね」
 火照る頬を手で仰ぎながら無難な返事をすると、彼は嬉しそうに同意した。
『くれぐれも気をつけるんじゃぞ。特に男には、近づくなよ』
「はい」
 ぬらりひょんに釘を刺された私は、良い子のお返事を返した。丁度その時だった。
「佐久穂さん、何してるの?」
「ウヒャッ!? リ、リクオ君……あのその、で…電話してるの」
 急に出てきた彼に、私はバクバクと煩く騒ぐ胸の音を誤魔化すのに必死だった。
「ふぅん……彼氏?」
「ち、違うよ! そんなんじゃないもん」
「じゃあ、誰?」
 キョトンと首を傾げる彼に、私は言葉に詰まる。妖怪ですとは言えなくて、咄嗟に思いついたことをそのまま口にした。
「近所のお兄さんなの! 私のこと心配してくれて……あ、夜に電話しますね」
『おい、佐久穂!?』
 ぬらりひょんの声が聞こえたが、私は心の中で謝りながらブチッと通話終了のボタンを押した。
「良かったの?」
「良いんです。夜にも電話するので」
 私の言葉に、彼は眉を顰めている。無言になったかと思うと、見透かすような目で言った。
「本当に近所のお兄さん?」
「え?」
 何を言われているか理解できなくて、間抜けなことに言葉を返すと彼は続けて言った。
「ただの近所のお兄さんなら、頻繁に電話するかな。佐久穂さん、もっと男を警戒した方が良いと思うよ」
 リクオの言葉に私は戸惑いを隠せなかった。彼の言っていることは、半分も理解できなかったけど彼が何となく怒っているのは分かる。
「は、はい…気をつけます」
「よし」
 私の言葉に機嫌を直したのか、手を差し出して戻ろうかと言った。流石に手を繋いでいくのは恥ずかしくて彼の隣に並んで歩くことにする。
 一瞬でも彼氏と間違われそうになったことに、私は何も感じなかったことに驚いた。
 前の私なら、多分落ち込んでいたと思う。自分の気持ちの変化に戸惑いを隠せなかった。

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