小説 | ナノ

初代|切欠は貴方J [ 16/145 ]


 観光と言っても、この辺りは温泉しかなかった。沢山ある温泉を一日で巡ることは出来なかった。
 温泉と食事を堪能した清十字怪奇探偵団の面々は、満足そうな顔でゴロゴロしている。
 私はというと、清継から預かった財布を持って売店に来ていた。ぬらりひょんに電話しているところを見られて、昼みたいに詮索されるのも嫌だからだ。
「いきなり切ったから掛けるのが気まずいな……」
 電話しなければ、それはまたそれで心配されるだろう。
「うぅ……えい!」
 意を決して、短縮ダイヤル1と発信ボタンを押すとワンコールでぬらりひょんが出て驚いた。
『佐久穂か!? 昼間のあれはどういう事じゃ!』
 ぬらりひょんの怒声に、耳がキーンッとなる。大きな声出しすぎだ。
「ご、ごめんなさい」
 取敢えず謝ってみるが、
『そりゃ何に対してのごめんなさいだ』
と切り替えされた。
「電話を途中で切ったこと、です?」
『ちげぇ! そんなことで怒るか』
「違うんですか? え、じゃあ……」
 なんだろう。という言葉は飲み込んで、色々と考えてみるが思い浮かばない。
『ワシは、男に近づくなと言ったはずだがなぁ』
「あ……」
 リクオとの会話が向こうには筒抜けだったことに、顔を赤らめる。
「ご、ごめんなさい」
『まあ良い。次は無いからな』
「はい」
『ところで佐久穂。おぬしは、リクオが好きなのか?』
 唐突に聞かれた言葉に、私は思わず咽た。盛大にゲホゲホと。
「ななな……」
『図星か』
「ちがっ……」
『色々と絡んできたら、ニッコリ笑って仕事を押し付けてやれ。奴なら嬉々としてするだろう。じゃあな』
 言いたいことを一方的に言って電話を切ったぬらりひょんに、私は呆気に取られる。
 リクオのことを好きだと言い当てられたときに、誤解されるのが嫌だと思った。
「……彼のことが好き?」
 口に出してみて、自分の言葉が思いのほかストンと心に落ちる。
 相手は、妖怪の大将(と言っても、孫にその座を譲っているらしい)で自分は人間。ましてや、アドバイスされる始末。
 自覚して早々の失恋決定な恋に、私は大きなため息を漏らした。
「慣れているから良いけどさ。……切ないよ」
 愚痴を零した後、私は食事の材料調達へと頭を切り替える。悩んだところで自体が変わるわけではないのだ。
 自炊できる施設があるだけあって、品揃えも結構豊富だった。
「自炊するって分かっていたら調味料も持ってきたのに」
 買うのかと思うと、勿体無い気がする。ポイポイと必要な調味料や食材を籠の中に入れる。
 あっという間に籠はいっぱいになったが、欲しいものが全部揃えられたわけではない。
「うーん、こんなことなら誰かに買い出しついて来てもらえば良かったかも」
 後悔しても遅く、私は後一往復するのかと思うと溜息が出た。
「そんなことだろうと思って手伝いに来たよ」
「フニャァアッ!?」
 ポンッと肩を叩かれ、私はまたしても変な悲鳴を上げる。気配を感じさせない現れ方ってどうなの。
「ぬ、奴良君……驚かさないでよ」
「ごめん、つい」
 謝っている割には、顔はいい笑顔を浮かべている。紳士だと思っていたが、腹黒い一面を垣間見た気がする。
「もう終わり?」
「まだ、もう少し買いたいです」
「じゃあ、買っておいで。僕は、袋に詰めておくから」
 ニパーッと後光が差すような笑顔でそう言われると、断ることが出来ず私はお言葉に甘えてもう一往復する予定だった買い物をしたのだった。

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