小説 | ナノ

初代|切欠は貴方F [ 12/145 ]


 急遽決まった合宿に、断ることができず私は仕方なく旅行の準備をしていた。
「着替えでしょう。ルームウェアでしょう。下着にサニータリーセットに、洗顔道具に……旅行なんて久しぶりだから何を持っていけば良いんだろう」
 悩みながらボストンバックに荷物を詰め込んでいると、いきなり声を掛けられて驚いた。
「どこか行くのかい?」
「うひゃっ!? ぬらりひょんさんですか、ビックリした。驚かさないで下さい」
 バクバクいう胸を押さえながら文句を言うと、呆れた顔をされてしまった。
「ワシは、妖怪じゃぞ。驚かしてなんぼじゃろう」
「そう言われればそうですけど……」
「で、その荷物は何じゃ?」
 話を戻されて、私は今日あった出来事をぬらりひょんに話した。
「クラブの合宿が、GWにあるんです。旅行なんて、久しく行ってないから何を持っていけば良いのか分からなくて……」
 へにょんと眉を下げる私に、ぬらりひょんはポムポムと頭を軽く撫でてくれた。
「女友達に電話で相談すりゃあ良い」
「あ、そっか。そうですね」
 携帯を持たされたが、使うのはメールの機能が主でそれもぬらりひょんとしかやり取りしていない。
 スッカリ忘れていた携帯の存在に、私は恥ずかしくて頬を赤く染めて俯いた。
「折角の旅行じゃ。楽しんでくるといい。すかーととか穿いたらどうじゃ?」
 家ではパンツルックが多いので、ぬらりひょんは私の箪笥を漁っている。
 目当てのものを引っ張り出してくるが、彼の好みではなかったのか落胆している。
「丈が長すぎる。もっと短いのはないんかい」
 制服のスカートが短いので、洋服も短いものを持っていると思っているのだろうか。私は、苦笑いを浮かべる。
 足を見せることに抵抗があると言ったところで、ぬらりひょんは聞く耳を持たななかった。
「醜い足を晒したくないから良いんです」
「綺麗な足じゃねーか。勿体ねぇ。どうせ、そんなことだろうと思って用意した」
 どこから取出したのか、差し出されたのはブランド物の紙バック。
「これは?」
 嫌な予感をヒシヒシと受けながらも、尋ねてみると彼は臆面なく宣った。
「洒落た服の一枚や二枚持っておけ。ワシが、似合うと思った服を入れてきた」
「こ、困ります! 私、買えません」
 スーパーブランドと言われるそれは、紙袋だけでもオークションなどで売買できるくらい価値があるものだ。
「つべこべ言わずに受け取れ」
 強引に押し付けられた私は、恐る恐る中を開けてみると肌触りのいいワンピースやスカート、シャツなどが数点出てきた。
 どれも可愛くて色も素敵なのだけど、短すぎる。
「大きさは合っていると思うが、念のため今着てみろ」
「ええ! 今着るんですか?」
「放っておくと箪笥の肥やしにするじゃろうが」
 こんな高価なもの着れないと言いつつ、箪笥の奥に仕舞ってしまう私の性格を熟知したぬらりひょんが、そうはさせるかと釘を刺す。
「ほれ、早く着せて見せろ。なんならワシが、着せてやろうか?」
 ニヤッと人の悪い笑みを浮かべるぬらりひょんに、私は顔を真っ赤にし怒鳴りつける。
「ぬらりひょんさんのスケベ!」
「助平上等じゃ。それが、男っちゅーもんじゃからのぉ」
 カッカッカッと笑い部屋を出て行った彼に、私はまんまとペースに嵌められてしまったことに気付く。
「ウウッ……着なきゃ絶対居座るよね?」
 着るまで帰らないとか言いそうな彼が目に浮かび、私は大きなため息を一つ吐いて彼が用意した服に袖を通したのだった。


 着替えを終えた私は、髪型も少し変えリビングで待っているぬらりひょんのところへ見せに行くと彼は満足そうな顔をしている。
「似合うじゃねーか」
「あ、ありがとう御座います」
 褒め上手なのか、彼はことある毎に私を褒めてくれる。
 その度に顔を赤くして照れる私をどう思っているのだろう。
「そういや、何の部活に入ってんだい?」
「清十字怪奇探偵団っていう、妖怪について調べる部活……らしいです」
 清十字怪奇探偵団の言葉が出た瞬間、ぬらりひょんの表情が綺麗に抜け落ちる。
「ダメじゃ! 旅行は行くな」
 急に旅行へ行くなと言い出す彼に、私は訳がわからず首を傾げる。
「え? え? 急にどうしたんですか?」
「男もおるじゃろう! 絶対ダメじゃ!!」
 男子部員も一緒の合宿が気に食わないのか、ダメの一点張りをするぬらりひょんに私は3時間掛けて説得する羽目になった。
 最終的にスカートではなくズボンで行くことで何とか彼から許可を貰ったのだが、それでも不満が残るようで合宿中は1日3回(最低)電話することで決着がついたのだった。

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