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57.蛙の子はカエル [ 58/72 ]


 シュザンヌとのお茶会(と云う名の報告会)は終り、ルークが待つファブレ邸へ行くかと疲れ切った顔をしているであろう私の前に、軍人の鑑と云えるジョゼット・セシルが出迎えてくれた。
「メシュティアリカ姫、今日から貴女様の護衛に就きます。ジョゼット・セシルと申します。よろしくお願いします」
「ルーク…様の護衛ではなくですか?」
 危うくルークを呼び捨てにするところだった。一応非公式ではあるが、婚約者なので呼び捨てても問題は無いだろう面倒が起きるのは避けておきたいのが人情である。
「陛下より貴女様をお守りするようにと申し付けられております。何しろ……」
「その先は聞かなくても分かりますから言わないで下さい」
 一人特攻かましてでソードダンサーを瞬殺するくらいだ。ルークに護衛をつける必要性無しと判断したのだろう。
 譜歌と譜術はあれど、私の実力はルークの足元に到底及ばない。
 いや、考えようによったら生フセシリが見れるわけだから±か?
「セシル将軍、ルーク様に協力頂き人類存続のために動いています。貴女の力をお貸し下さい」
 深々と頭を下げると、彼女は面食らった顔で慌てて頭を上げるように言った。
「お止め下さい! 姫に頭を下げさせたとなれば怒られてしまいます」
「助力を乞うているのですから、頭を下げて当然でしょう」
「っ……」
「そうだ、セシル将軍。私のことは、ティアと呼んで下さいね」
 ニッコリと笑みを浮かべて名前呼びを強要させた私は、彼女の返事を待たずにファブレ邸へと向かって歩き出した。
 クソ真面目な彼女のことだもの、いけませんだの反対するだろうから都合が悪い部分はマルッと無視するに限る。


 三度目になるファブレ邸への訪問だが、私の姿を見つけた門番が深々と頭を下げている。何故に?
「お帰りなさいませ、メシュティアリカ姫」
「へ? あ、はい…た、ただいま?」
 お帰りって何だよと思いもしたが、予想外な対応にテンパッた私は間抜けにもただいまと返事をしていた。
 門を潜り抜け中庭を通り玄関のドアを開ければ、メイドがずらりと並んでおり皆口々に「お帰りなさいませ姫様」と言ってくる。何これ気持ち悪い。
 その先には、特徴的な頭をしたラムダスが執事然とした佇まいで帰還の喜びの言葉を述べている。
「ちょっと待て、私はこの家の姫じゃないんですけど」
 赤の他人ですアピールをしたら、
「姫は、ルーク坊ちゃんの嫁ではありませんか。ならば家族同然で御座いましょう」
といつの間にか婚約者から一足飛びに嫁に昇格されていた。婚姻届に判押してねぇぞゴルゥァァア、と食って掛かりそうになったのを寸前のところで飲込んだ。
「ルーク様と婚約はさせて頂いておりますが、結婚はまだしてませんよ」
「嗚呼、それなら心配は及びません。婚姻届は提出されていますから名実共に夫婦で御座いますぞ。何しろナタリア姫が国家反逆を侵し、インゴベルト元陛下は病床につき、シュザンヌ様が女王として仮即位なさいはしましたが、ルーク様が成人するまで持つかどうか……」
「それは、お気の毒としか言いようが無いんですが」
 第一私関係なくね? と思っていたら、
「一刻も早くファブレとランバルディア国のお世継ぎを作って頂かねばなりません。急な婚姻も致し方ありません。ルーク様も快く承知して下さいましたし、後見人であるピオニー九世から許可は頂いておりますよ」
 人のあずかり知らぬところで許可を出した愚帝とルークに私の怒りはMAXだ。
「……あの野郎共」
 高笑いするシュザンヌと、仏か何かを拝むようなポーズを取る愚帝ことピオニーの顔が瞬時に浮かぶ。ロッドがぐしゃりと拉げた誰も気にしない。
「お披露目は当分先になるでしょうがご安心を。我々が、盛大なウエディングをご用意致します」
「用意せんでええわ!!」
 声高らかに宣うラムダスを、感情に任せて怒鳴りつけた私は悪くないと主張したい。

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