小説 | ナノ

58.確信犯ルーク [ 59/72 ]


「ルーク!」
 バンッと居間のドアを開け放ち怒りの形相で飛び込んだ私は、のほほーんとお茶を楽しんでいるルークの胸倉を掴み詰め寄った。
「お帰り。どうしたんだよ。そんな怖い顔して。お茶飲むか?」
 そう言いながら手渡されたティーカップには、彼が愛飲しているオレンジペコだった。
 良い塩梅の温度が、私の喉を潤し怒りゲージも少しではあるが下降した。
「ルーク、私の承諾なしに婚姻届にサインしたでしょう」
「うん、帰ってきたらラムダスから届出書渡されてさ。婚約してるんだし、結婚も時間の問題だろう? だったら別に今でも良いかと思ってサインしておいた」
 あっけらかんと言い放った彼の言葉に、私は目頭が熱くなった。駄目だ。このお子ちゃま、結婚と婚約じゃあ天と地ほど離れていると言うのに全然分かってない。
「全て終わった後、トンズラできなくなるじゃないかぁあっ!!」
 ノォォッと両手で顔を覆い苦悩する私に、
「やっぱりな。シンクの言ったとおり予防線張っておいて良かったぜ」
と何でもないように宣った。
「なんですとぉ!? シンクッ」
 貴様の入れ知恵かと睨みつければ、彼は私の顔を見てハッと鼻で哂った。
「あんた一人だけ逃げようたってそうはいかないからな」
「酷い!! 新しい道を用意して上げたのに恩を仇で返す気?」
「波乱の人生を提供してくれたの間違いでしょう」
 ケッと吐き捨てるシンクに、私はウグッと言葉を詰まらせた。どっちに転んでも彼の人生に平穏という文字はないだろうに。理不尽だ。
「しかも、子供二人作るの決定してるし! 無理、無理っ。七歳児相手に欲情しないわよぉぉおっ」
 ダンダンッとテーブルを叩きながら愚痴を零す私に対し、後ろでは顔を真っ赤にしながら口を挟むべきか諌めるべきかと悩むジョゼットの姿があった。
「十七歳だ!」
「中身は七歳でしょうがっ! 私に淫行しろと言うの?」
「夫婦なんだから夜の営みは普通だろう」
「そうだけど……そうだけど、何か違う」
 嫌だと駄々を捏ねる私に、それまで大人しかったブタザル――ではなくミュウが、キョトンとした顔で口を開いた。
「ご主人様、ルークさんと番が嫌ならミュウと番になれば良いですの! 種族を超えたラブロマンス……燃えますの。仔ライガもミュウがパパさんになれば嬉しいですの」
 番の立候補したミュウに対し、仔ライガの猫パンチが炸裂した。ミュウがパパになるのは嫌らしい。
「ミャー」
 仔ライガは、前足を脛に乗せ抱っこを強請っている。放っておいても良かったのだが、放置すると抱き上げるまでミャーミャー鳴くのが分かりきっているので抱き上げた。
「ミャーミャー」
 必死で何かを訴えるような仔ライガの鳴き声に、ヘルプとミュウを見るが猫パンチを食らったせいか気絶している。
 岩も砕くミュウアタックを持っているのに、仔ライガの猫パンチ如きで気絶とは情けないにもほどがある。
「アリエッタ、通訳して頂戴」
「仔ライガ、ママの番は自分だって言ってるです」
「種族を超えた禁断の愛ってやつだね」
「そこ、黙らっしゃい!」
 シンクの茶々は、私にとって死活問題だ。仔ライガが本気でそう考えているなら、尚更矯正しておかないと後々に影響が出てしまう。私の結婚とか結婚とか結婚などが。
「もう俺と結婚してるだろうが」
「騙し討ちじゃん! 私、まだ未成年なんですけど。婚姻届にサインもしてないのに、何この策略。あの愚帝、次ぎ会ったら髪の毛全部毟ってやる!!」
 代筆で書かれた書類を受理したキムラスカも好い加減だったが、脅されてあっさり書いちゃう愚帝ことピオニーもピオニーだ。完全に下に見られているぞ、マルクト!
「それだけは勘弁して下さい。あれでも一応、皇帝ですからお願いします」
 ビジュアルも重要だと認識しているアスランが、最近色々と評判が宜しくないピオニーが禿げたことで更に支持率低下させたら目も当てられないと言い募る姿は必死だ。
「チッ、じゃあディストに性欲減退剤を作らせてインポにしてやる」
と呟けば、ヒーッと声にならない悲鳴を上げて居間を出て行った。
「面白そうだとは思いますけど、そんな話をするために集めたんじゃないのでしょう。本題に入るべきじゃありませんか」
 呆れ顔で溜息を一つ吐くディストに、私はそうだったと頷いた。
「ルークの嫁になってしまったものは仕方がない。後で追々対策を考えるとして、まずは各々報告から始めましょうか」
 漸く仕事モードに切り替わった私に、ディストだけでなくアリエッタやジョゼットはホッと安堵の息を漏らした。

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