小説 | ナノ

56.秘密のお茶会 [ 57/72 ]


 シュザンヌに呼び止められ強制的に茶会へ参加させられたティア・グランツです。
 正に蛇に睨まれた蛙状態! 逃げたいのだけど、逃げたら生命の危機を感じるのは何故だろう。
「フフフ、こうして貴女とお話しするのは初めてですね」
「そうですね」
「息子を連れ去った時は、本当どうしてくれようかと思っていたのだけど……」
 パラリと扇子を開き口元を隠しながらドスを利かせた声で脅しを掛ける高等テクニック。
 本当にルークの母親かと疑わしくなるほど腹黒い彼女に、冷や汗がタラリと流れ落ちる。
「謝罪で済むとは思っておりませんが、その節は申し訳ありませんでした」
「それが分かっているなら結構です。貴女がルークのために動いたことでキムラスカに利益が生まれたのは紛れも無い事実。それは評価してましてよ」
 シュザンヌの言葉に素直に喜べないと思いつつも、当たり障りのない返事をしたら笑われた。
「旦那様やミュウ殿から聞いていた通りですわね」
 一体どんなことを吹き込まれたのか気になるが、下手な突込みを入れて墓穴を掘るのは危険と判断した私は無言を貫くことにした。
「導師が誘拐されたとアリエッタから報告が来たわ。シンクと共にファブレ家で待機しています。貴女にしては、珍しく出し抜かれたみたいね。これからどうするおつもりかしら」
「予測の範疇です。問題ありません」
 シレッとした顔で返せば、シュザンヌは目をパチクリさせてたかと思うとつまらなそうに鼻を鳴らした。
「慌てふためくか、焦った顔が見れるかと思ったのに残念だわ」
「随分といい趣味をされてますね」
「魑魅魍魎が跋扈している宮中では強かにならないと生きていけないのよ」
と嫌な人生観を提示してくるシュザンヌに、私は小さく肩を竦めた。
「それで、これからどうするつもりなのかしら」
「オリジナル・ルークが、アクゼリュスを落とすでしょうからそれを待ちます」
「は?」
 私の回答に度肝を抜かれたのか、礼儀諸々をすっぱ抜かしたシュザンヌは素で返した。
「ヴァンは、オリジナル・ルークを使ってアクゼリュスを落とすでしょうし。その方が、こちらとしても好都合ですからやらせましょうと申し上げているんです」
「何故?」
「導師が居ないとパッセージリングの入口は開かない。パッセージリングの操作には、ガイ・セシルが窃盗したガルディオスの剣とユリアの血が必要です。しかし、強制的に破壊すれば封印も機能しなくなる。それに、彼らは大罪人と晴れてなれるわけで堂々と首を切れるので都合が良いんです」
「導師を誘拐されても、されなくても支障はなかったと。そういうことなのね」
 呆れたと言わんばかりの彼女の表情に、私はニヤリと笑みを浮かべ是と返した。
 導師が居なくても、パッセージリングに入る方法はある。ルークに超振動で入口を消させれば良いだけだと言ってしまえば、元も子もないのでお口をチャックしておく。
「穴が開いてしまうと、それはそれで問題が発生しますがディスト博士と優秀な研究者達がその辺り何とかしてくれるでしょう。瘴気対策用に作られた飴もありますし、今回同行して頂いたファブレの皆さんには全国津々浦々回って頂きフォースフィールドの布教をして貰います」
 良いですよねと畳み掛けるように聞けば、彼女はフゥと嘆息を一つし是と返した。
「アクゼリュス崩落までは、こちらにいらっしゃるの?」
「何かと準備が必要ですので、暫くは」
 長い滞在はしないと暗に言えば、シュザンヌはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「未来の嫁と親睦を深めようにも、こうも立て続けに問題が起こると殺意が湧きますわね。死霊使い捕縛の件で合同捜査の嘆願がアルマンダイン伯爵とマルクトから届いてます。偽姫や愚息を野放しにするわけには参りませんので二つ返事で返しておきましたわ」
 アルマンダインのおっさん、大人しいと思っていたら直訴していたのか。
 思わず遠い目をした私に対し、シュザンヌはニッコリと笑みを浮かべて追い討ちを掛けた。
「ルークを狙う不届き者が居ないとも限りませんから、わたくし旦那様にお願いしてセシル将軍を貰い受けましたの。彼女を共に連れて行きなさい」
「良いのですか?」
「構いませんわ。この一件が解決出来たら、国を挙げて盛大な結婚式を行いましょう。その時は、マルクトの使者も是非輿入れして貰いましょうね」
と、輝かしい笑顔で宣うシュザンヌの言葉に私は今この場に居ないアスランに合掌したのだった。

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