小説 | ナノ

330万打SS 神威様リクエストA [ 3/34 ]


 毛玉’Sは、あらゆる意味で大変優秀だった。襲い掛かってくる(懐いてくる)魔物を片っ端から撃退し、疲れたと休憩を取ればどこから集めてきたのか果物や茸を集めてくる。
「毛むくじゃら共、中々に有能ではないか」
「一匹だとそれほどの戦闘能力はないかと思いますが、集団でゲスい攻撃を仕掛ける辺りいい性格をしてますけどね。非常食が傍に居るので、最悪飢えは凌げそうですご主人様」
 毛玉’Sを見ながらサラリと鬼畜発言する幸子は、私にベッタリな彼らが相当嫌いらしい。可愛い嫉妬なのだが、やることが過激で怖ろしい。
 何のかんの言いながら丸半日歩き続けた私達は、漸く町らしき場所に辿り着いた。
 質屋で手持ちの品を換金して宿を取れば良いかと思っていたら、警備していたおっさんに呼び止められた。
「おい、そこの子供。そいつは何だ!」
「は?」
 そいつと指差されたのは、私にくっついてきた毛玉’Sだ。
「モサモサを街中に入れるとは何事だ! 魔物連れはお断りだ。出て行ってくれ」
 円らな瞳が可愛らしいのに、彼らはれっきとしたモンスターらしい。かと言って入れないのは困る。換金できなければ宿が取れない。食事も出来ない。宿が取れなければ野宿になってしまう。
 私の考えが読めたのか、幸子がニッコリと笑みを浮かべて言った。
「彼らは、ご主人様の下僕です。人は襲いません。それになかなかに芸達者なんですよ。全員整列、点呼」
 幸子の号令に、毛玉’Sはキュッキュッと鳴き声を上げ順番に飛び跳ねている。いつの間に仕込んだろうと疑問に思う。
「……それでも駄目だ。魔物を町の中に入れることは出来ない」
 断固として拒否するおっさんの周りを毛玉’Sがキュィキュィ言いながら取り囲んだ。
「ヒィッ!!」
「こら、お前達威嚇は駄目だ」
 怯えるおっさんから毛玉たちを引き離し、私は町に入ることを諦めた。毛玉達がいるので食べるものには困らないが流石に野宿はきつい。ハァと溜息を吐いて引き返そうとしたら、腰に衝撃が走った。
 ワフンッと犬の鳴き声が聞こえたかと思うと、幸子の怒声が響いた。
「ご主人様の上から退きなさい、この駄犬!」
「毛玉の次は犬か、モテモテじゃな佐久穂」
「ものごっつう複雑なんですけど……」
 どうでも良いから退けて欲しいと切に思っていたら、飼い主らしき人物が犬を退かしてくれた。
「シロ、退くんだ」
「……助かった」
 へたりこむ私に、赤い胴衣に頭は金の冠をつけている。その格好が、どことなく西遊記に出て来る登場人物に似ていた。
「悟空のコスプレ?」
「それは違うと思いますご主人様」
 私の疑問に幸子の容赦ない突っ込みが入る。
「貴方、そこの畜生の主なら行き成り襲い掛からぬよう躾しなさい」
 幸子は、腰に手を当てコスプレ少年に文句を言った。文句を言われた方は、ポカーンッと幸子を見たかと思うと行き成り抱き上げ感嘆した。
「喋る人形なんて初めて見た」
「ギャーッ!! 気安く触るなバカバカバカ! 身が穢れる」
「ねえ、どういう原理で動いてるの?」
 是非とも教えてくれと乞われ、私はウッと言葉に詰まった。説明のしようがないので、企業秘密で押し通したのが不味かった。
 私達の現状を見て、良いこと思いついたと言わんばかりの彼はいい笑顔を浮かべて言った。
「行くところ無いんでしょう? ボクのところに来なよ。その人形も気になるし」
「いやいや、気にしないでくれ。つか、魔物もいるのにご家族が驚かれるだろう」
「大丈夫大丈夫。うちの城には、色んな奴がいるから全然問題ないよ。魔物も普通に闊歩してるし!」
と、少年は豪快に笑っている。が、今物凄く聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。
「うちの城? お前、貴族なのか」
 お坊ちゃんに見えないと言えば、彼はあっさりと自分の正体をばらした。
「あははは、まさか。そんな綺麗なお育ちはしてないって。ボクは、同盟軍軍主やってるリオウって言うんだ。本拠地にしているのが、デュナン城ってわけ。行くところがないならおいで。君、見た感じ武の心得はないでしょう。夜は、魔物が活発になるから尚更危ないよ」
 何だろう。好意で城に招いてくれるつもりなんだろうが、聞いていると仲間に勧誘されている気分になる。
「ご主人様、ここはリオウの好意に甘えては如何ですか? 彼のいう事は一理ありますし、何よりご主人様の安全が保証されます」
「安全は勿論、城の料理も抜群に美味しいよ! 何たって世界を旅した凄腕の料理人がいるし、娯楽施設もいっぱいあるから退屈はしないと思うよ」
「賭博場もありますか?」
「あるよ」
 幸子の質問に是と答えるリオウ。本拠地に賭博場って似合わない。
 幸子よ、私に賭博で稼がせる気満々なんだね。
「美味い飯が食えるのか!? 酒はないのか」
 凄腕料理人の言葉を聞いた如意輪観音の目がキランッと光った。食いつくところが、食べ物ってどれだけ食い意地が張っているんだこの女神と思わなくも無い。
「酒場もあるよ。品揃えは豊富な方じゃないかな。トラン共和国と同盟を結んで交易の幅も広がったし。カナカン産ワインは結構有名らしいね」
「よし、行くぞ佐久穂!」
「行きましょうご主人様!」
 即決した如意輪観音と幸子のタッグに私は逆らえるはずもなく、力なくハイと返事を返しリオウに招かれるままにデュナン城にドナドナされたのだった。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -