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27.託児所じゃありませんから [ 28/39 ]


「……何ですか、これは?」
 ズモモモと暗雲を纏い紅玉達を威嚇するカシムに、私はヘラッと笑ってみせるとハリセンでどつかれた。
「痛いよ、カシム君! 何で殴るの?」
「愛想笑いで済ませようとすんじゃありません! で、私の質問にいつ答えて頂けるんです」
 流石人前では、猫かぶりが板についてきた彼に私は気圧されながらモゴモゴと言い訳をしてみる。
「あー……遊びに来てくれたんだよ」
「煌支部(ここ)は、託児所じゃありません。関係者以外は立入禁止です。ウチに帰してらっしゃい」
 go homeと入口を指差すカシムに、私はハハハッと乾いた笑みを浮かべた。
「お友達のところに遊びにきただけなのに酷いわぁ」
「ケチケチすると禿げるよ?」
 一人は迷子の時に助けた紅玉、もう一人は紅炎繋がりで面識を持たざる得なかった彼の弟である練紅覇だ。
 この人物、中々に毒舌で多分一番カシムと反りが合わない子かもしれない。白雄達が来たときの比でないくらい鬼の形相だ。
 内心このクソガキと毒づいているのが手に取るように分かる。
「社会見学だと思って、な?」
「寝言は布団の中で言いやがって下さい」
 私の懇願も一刀両断するカシムの言葉は、敬語すら危うくなっている。
「王族に対する礼儀がなってないよね」
「王族といえど先触れを出してから来るのが礼儀でしょう。威張り散らして当たり前の王子殿下には、理解出来なかったようですね」
 ガルルッと唸り声を上げていがみ合う二人に、私は頭を抱えて蹲りたくなった。
「二人とも、お、おちつ……」
「「あんたは黙ってろ(て)!」」
 いがみ合いに終止符をと思って声を掛けたら、双方からギロリと睨みつけられた。
「いい度胸じゃないか。表へ出ろ。このボクが上位だってことを教えてやる」
「上等だ。返り討ちにしてやるぜ」
「紅覇ちゃん頑張ってぇ〜」
 紅玉は、キャーキャーと黄色い声を上げながら応援している。誰か止めろよと周囲を見渡すが、練家の護衛兵も私の部下も一様に顔を反らし目を合わそうともしない。
「二人とも止めてくれ。お願いだから!!」
「人の喧嘩に口出しすんな」
「そうそう。君は、黙って大人しくそこで見てれば良いんだよ」
 こんな時ばかりは何で気が合うのか不思議で堪らないよと嘆く私を置いて、二人は縺れ合うように外へと出て行ってしまった。
 慌てて追いかけると両者剣を手ににらみ合っている。このまま戦闘になったら民が巻き込まれかねない。
「二人とも頭を冷やしなさい! 荒れ狂う流れよ、スプラッシュ」
 上空から連続で水流を地面に叩きつけるように落とされ二人仲良くべしゃりとその場に押し潰されていた。
「ふぅ、全く行き成り戦闘をおっぱじめるなんて周りに迷惑でしょう」
「……あんたが、それを言うか」
「同感」
 ボソッと呟かれた聞き捨てならない言葉に、ギッとカシムと紅覇を睨むと彼らは文句を云うのは得策じゃないと口を噤んだ。
「市街地ですることじゃないと言ってる。巻き込まれた人が怪我したらどうする。やるなら人の居ないところでやりなさい」
 クドクドと説教する私に対し、二人揃って納得いかないと言わんばかりの顔をしていたので声を荒げても致し方ないと思う。
「分かったら返事!」
「「はい!」」
 その後、近隣の皆さんに二人揃って謝罪させた。私の機嫌が宜しくないと判断した紅玉が、紅覇を引きずりその日は帰って行ったのだが、度々練支部を突撃訪問してはカシムと喧嘩する紅覇の姿が見られるようになる。

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