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28.目を付けられたようです [ 29/39 ]


 白雄達を見ないと思っていたら、残兵の手に掛かって現王共々殺されたというニュースが飛び込んできた。
「彼らが、残兵如きに殺されるとは到底思えないんだけど」
「武人としては優秀でしたからね」
 若くして一軍の将を任されるほどの男が、残兵に易々とやられるとは到底考えられない。
 華やかに見られがちな王宮は、色々な思惑が渦巻いている。それは、バルバットも大差ない。
 王に子供が複数いると、王位争いが勃発する。それは、当人の意思とは関係なくだ。
 私は、王には相応しくないと自覚している為あらかじめ父王には王位に着かないと宣言している。
 サブマドも力量を弁えているのか、王になりたいとは言わなかった。寧ろ、アリババを王にしようと一生懸命になっている節がある。
 アリババが拒否したら、自動的に王様稼業を継ぐ羽目になるのだから必死にもなるだろう。
「身内に暗殺されたと思うのが一番しっくりくるな」
「どうします? 現皇帝が崩御した今、次は紅徳が皇帝になるでしょうね。兄に比べ好色で愚昧と評判らしいですよ」
「それが本当なら国は荒れるな」
 少なくとも紅炎は、民を思う気持ちがある。彼が、父の愚行を正すだけの力があれば最悪な事態は免れるだろう。
「私としては、一刻も早くこの国から出ることを提案します。ただでさえ王家と関わりがある。好色の紅徳に目を付けられたら厄介です」
「……」
「貴方が居なくても全商連は機能します。貴方が育てた彼らは上手くやってくれるでしょう」
 混乱のさなか彼らを置いて国を出たくない私に対し、カシムは正論で畳み掛けてくる。
 私の身を案じての言葉だからこそ拒否することも出来ず、かといって頷く事も出来ず無言を貫いていると彼は大きな溜息を吐いた。
「危険と判断したら即国を出ます。それまでは、見守りましょう。この国の行く末を」
「〜〜〜っ、カシムありがとう」
 感激のあまり抱きつこうとしたら綺麗に避けられた。勢い余ってそのまま壁に激突したのは言うまでもなかった。


 白徳皇帝が崩御し紅徳が皇位について程なくした頃、煌支部の前に物々しい雰囲気を纏った兵達が押し掛けてきた。
「ティアと名乗る女はいるか。隠し立てすると容赦はせぬぞ」
「皇帝直属の近衛兵が、我が主に何か御用でしょうか?」
 米神に青筋を立てながら用件を伺うカシムは、本当によく出来た子である。
 殺気立つ部下に囲まれているのに、一番偉そうな態度を取る兵が上から目線で答えていた。
「ティアという女を陛下が所望している。召し上げて貰えるんだ。嬉しく思うのだな」
 フンッと鼻を鳴らしながら偉そうに宣う兵に、私はどこの三流役者の芝居だと溜息を吐いた。
「何事です。騒々しい」
「お前が、ティアか?」
「如何にも。何用です。行き成り武装して押し掛けてくるなど非常識ではありませんか」
 無表情でそう返せば、
「貴様は、これから後宮へと召し上げられる」
と完結に返された。うん、同じことをカシムに言ったのを聞いていたから知っている。
「拒否すれば、お前の家族や部下が酷い扱いを受けることになるだろう」
「ティア様、聞き入れる必要はありません」
「そうです。我らがどんな扱いを受けようとも、ティア様が犠牲になる必要はありません」
 口々に言い募る部下の言葉に、私は小さく笑みを浮かべた。他国の人間だと言うのに、身体を張って守ろうとしてくれる。
 仲間を思う心が育ってくれたことは、何よりの収穫と言えるだろう。
「落ち着きなさい。大丈夫ですよ。カシム、用意をして。周黒虎、今から貴方が全商連煌支部の長です。心してその地位に着きなさい」
「お待ち下さい。それでは、貴女様が犠牲になるだけではありませんか」
 黒虎と呼ばれた屈強な男は、悲壮な声を上げ駄目だと私の言葉を拒絶する。
「私は、全商連の長。理念を違えることはありません。大丈夫ですよ。また、逢うこともあるでしょう」
「何を馬鹿なことを。一度後宮に入れば出ることは叶わんぞ」
「皆、また会おう。さあ、行きましょうか」
 殺戮の宴に、とは言わなかったが私の思惑を理解しているカシムは、ニッコリとそれはいい笑顔を浮かべていた。

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