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26.王宮へご招待 [ 27/39 ]


 紅玉姫を保護した数日後、芋づる式になんか釣れた。高官らしき男が押し掛けてきたかと思うと、主が礼をしたいと言っている付いて来いと言い出し王宮へ連行された。有無を言わさずにってどうよ?
 拉致紛いに連れてこられたせいで、カシムに何も言わず出てきてしまった。帰ったら殺される。
 一人ガタブルしていると、いつの間にか王宮に付いていた。
 バルバッドとは異なり、私の故郷と通ずるものがあり懐かしさを感じた。
「紅炎様、例の娘をお連れ致しました」
「入れ」
 声を聞く限り私とそう変わらないくらいに思える。練家直系については、知識としてあるが傍系まで調べる必要も無いと思っていたのが仇になったか。
「貴女が、我が妹を助けて下さった方か」
 品定めをするような視線に眉を潜める私に対し、紅炎は予想外の私の反応に目を見開いている。
「随分と機嫌が悪いようだ」
「いきなり有無を言わさず拉致紛いに連れて来られては機嫌も悪くなりましょう。無礼を働くのが礼とは思いたくもありませんが。どうなのでしょう」
 ニッコリと笑みを浮かべて毒を吐けば、紅炎は私を連れて来た男に向かってこれはどういう事だと確認を取っている。
 どうやら強引に連れて来たのは、彼の望むところではなかったらしい。
「我が下僕が失礼をした」
 優雅に頭を下げる紅炎を見て、私は驚いた。王族が、他者に頭を下げるなどあってはならないことだと教育されているだろうに。
 自国でもその風習は根強く口さがない貴族連中から色々と陰口を叩かれたこともあったが、今ではいい思い出である。
「王家に縁のある方から謝罪の言葉を頂くとは思いもしませんでした」
「こちらに非があるならば謝罪をするのは当然のことだろう」
 なるほど、良い心構えだ。こう言ってはあれだが、白雄や白連も人成は悪くないが上に立つものとしての求心力はあるとは思えない。
「面白い方だ。そう考える王族は少ないもの。さぞ、周りは五月蝿いでしょうに」
「ほぅ、分かっている風な口を利くのだな」
「これでも王侯貴族相手に商売を手広くしておりますので、色々とあるのですよ」
 フフフと柔らかく笑みを浮かべながら、紅炎の探るような視線をするりと交わす。
 傍から見れば穏やかに会話しているように見えなくもないが、こちらは食うか食われるかの切羽詰った状態だ。
「話は戻るが、我が末妹を助けて頂いたこと甚く感謝している。また、従兄弟の白龍も貴方に助けられたと聞く。是非ともお礼がしたいのだが、何か欲しいものはあるだろうか?」
「そうですね。特にこれと言ってはありませんが、有事の際に貴方のお力を借りれるようにして頂けますか?」
 物欲よりも確約をくれと言ってみれば、予想外の返事に紅炎は鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をしたかと思うと行き成り腹を抱えて笑い出した。
「あははははっ、くくくっ……」
「笑う要素はどこにも無いと思うのですが」
「ハハハッ、悪い悪い。まさか、そんな答えが返ってくるとは思ってもみなかったからな。王族とはいえ俺は傍系だ。俺の力など高が知れているだろう」
 悪いと言う割りに悪びれた様子のない紅炎に、私はニッコリと笑みを浮かべて言った。。
「傍系であろうと、王族の肩書きは影響力が大きい。それは、貴方様もご存知でしょう。私に出来ることはそう多くはありません。私の力でどうにもならない時がきたら、貴方のお力を借りたいと申し上げているのです」
 私の言葉に、紅炎は少し考える素振りを見せた後、彼は私の提案を快諾した。
「良いだろう。練紅炎の名に誓ってその望みを叶えよう」
「ありがとう御座います」
 このやり取りが、後に祖国を救うことになろうとは私はこの時知るよしもしなかった。

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