小説 | ナノ

25.迷子発見 [ 26/39 ]


 バルバッドと連携を取りつつ郵便事業を軌道に乗せた私は、マルッとカシムに丸投げをして新たな事業開拓に勤しんでいた。
 『リーズナブルだけど且つ手頃な値段で買える雑貨屋が欲しい』なんて邪な気持ちで始めたアクセサリーショップの前に、何故かその場に不釣合いな人間が窓に張り付いて中をジーッと覗いている。
 不審者に見えなくもないが、彼女の視線の先にあるものが新作のブレスレットなので、恐らくそれが欲しいのだろう。
 私は、店から出てブレスレットを食い入るように見つめている少女に声を掛けた。
「折角ですから手にとってみて見ては如何ですか?」
 ビクッと身体を揺らし顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振ったかと思うと、彼女はハタリと何かに気付いたのか誰かを探すように周囲を見渡している。
 そして目が潤み始めたのを見て、私は大体の予測がつき顔を引きつらせた。
「ま、迷子かな?」
「………」
「え?」
 ボソボソと喋る言葉が聞き取れず聞き返したら、今度ははっきりと分かるくらい大きな声で人の名前を呼んだ。
「かこーぶーん」
 うわーんっと声を張り上げて泣く彼女に、私は嗚呼こうなっちゃうのねと溜息を漏らした。
 大方、ブレスレットに夢中になって付き人と逸れたのだろう。
「お嬢ちゃんは、お家の人と逸れちゃったのかな?」
「うえぇぇん、かこーぶん、どこぉぉ」
「大丈夫だよ。私が、君のお兄さんを探してあげる。カコウブンさんの特徴を教えてくれるかな?」
「……顔に眼鏡みたな模様があるのぉ。軍配団扇を持ってるわぁ」
「眼鏡みたいな刺青に軍配団扇……ですか」
 何じゃそりゃ、と思わなくもないが身振り手振りで訴える彼女に面と向かって言えるわけもなく、ぐっと言葉を飲込み彼女の名前を聞いた。
「貴女の名前を教えてくれる?」
 少女と目線が合うように膝を折り笑いかければ、ぐすぐすと鼻を啜りながらも小さな声で『練紅玉』と名乗った。
「練…紅玉…?」
「あたしは、練紅玉っていうのよぉ」
 聞き覚えのある氏に、私はまさかと思い練白雄の名前を出してみた。
「白雄殿のご家族ですか?」
「ちがうの。白雄さまは、紅玉の従兄弟さまなのぉ」
 従兄弟……従兄弟か……。練家関係で最近ちょっとお怒り気味のカシムに知られたら面倒臭いことこの上ないことになりかねない。
 しかし、護衛も傍にいない皇族を放り出すわけにもいかないだろう。男の子である白龍でさえ、人攫いにあったくらいだ。女の子となれば尚更危険だ。
「私は、ティアと申します。白雄殿とは、友人なのですよ」
「白雄さまの友人なのぉ?」
「ええ、ひょんなことで知り合いまして。カコウブン殿は、私の部下が貴女の元にお連れします。今しばらく、私の店でお待ち頂けますか? 待っている間お暇でしょうし、店内ならどこを見て回っても構いませんよ」
 そう言うと、紅玉はこくんと小さく頷きディスプレイに飾ってあったブレスレットのところへ一目散に駆け寄っていた。
 私は、煌家に遣いを送ると同時に連絡用の水晶を使い城下で働く全商連の者に夏黄文の特徴を伝え早急に連れて来るよう伝令を入れた。
 そして半刻ほどして屈強な男に連行された夏黄文と、嬉々として飛んできた白雄、更には怒髪天をついたカシムが無表情で私を見下ろす姿があった。

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