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330万打企画SS紫姫和己様リクエストB [ 10/11 ]


「はー……一気に疲れが来た。あの二人が揃うと碌でもないな」
 お菓子を集りに来たのに、喧嘩に巻き込まれるなんてついてない。
 露樹のところへいざ行かんと歩き始めたところで、縁側で日向ぼっこしていた物の怪が私を見た瞬間、一瞬にして本性に戻り抱きかかえたかと思うと手近にあった部屋へ放り込まれた。
「ギャンッ! 何する物の怪!!」
「物の怪言うな、騰陀だ! ……じゃない!! 何て格好してんだお前はっ」
 顔を真っ赤にして怒鳴る物の怪もとい騰陀に対し、私は至って冷静に答えを返した。
「全裸」
 仔虎姿の時は服を着ないのだ。本来の姿に戻ってもそれは同じで、一々恥ずかしいなんて思っていたら虎なんてやってない。
「お前に羞恥心はないのかぁああっ」
「ない。虎に羞恥心を求めるな」
 実に下らない押し問答をぶった切ると、騰陀は頭を抱え呻いている。
「頼むから、本性の時は服を着ろ。いえ、着て下さい。お願いします」
 ガシッと肩を掴まれ血走った目で懇願されることほど気色悪いとは思わなかった。
 面倒臭いと言いそうになったのを根性で飲込んだ。
「服を着ろと言われても持ってないぞ」
「直ぐ用意するから、お前はそこにいろ。絶対部屋から出るなよ」
 聞き分けの無い子供に対し言い含めるように厳命して部屋を出た騰陀の後姿を眺めながら、私は面倒なことになったと長尾を振るいピシリと畳を叩いた。
 数分の後に、ニコニコと笑みを浮かべる天一とキラキラしい笑顔を浮かべる彰子が大量の服と一緒に現れた。
「もっくんから聞いたわ! 藍は女の子なんだから、無闇矢鱈に肌を見ちゃダメよ」
「いや、私虎だし」
「これからは、わたくし達が見立てた服を着れば宜しいのです」
「だから虎だって」
「実はね、藍をイメージして作った新作があるの 是非とも、これを着てわが社の広告塔に」
 紙袋から取り出されたのは、純白のフリルが沢山ついた甘めのワンピース。ロリータも目じゃないぜ、な洋服にゲッと顔を歪ませた。
「いいえ、藍にはこれが似合います」
 そう言って和紙から出したのは豪勢な着物である。フリフリのゲロ甘ロリータか、動き辛い振袖かの二択に私は迷うことなく彰子の服を取った。
「私の藍、良い子ね」
「わたくしは諦めませんわ。藍に似合う服を用意します」
 悔しがる天一を放置し、 猫可愛がりする彰子の手を叩き落とした後、着方の分からない複雑怪奇な構造をしている服を四苦八苦しながら着た。
 着るものも着たしもう用はないと部屋を出た私が向かったのは、この家の食を握る露樹がいる台所だった。


「露樹ご飯」
「あらあら、藍ちゃんお帰りなさい」
「ただいまぁ。お腹すいた」
 天后と同じことを云う露樹に、飯くれと強請ると彼女は困ったように笑った。
「これからお買い物なのよ。戸棚におやつが入ってるからお義父様と一緒に食べて頂戴」
「分かった」
 露樹に言われた通り、ガサゴソと戸棚を漁りおやつを引っ張り出す。
 盆にお茶と菓子を乗せ晴明のところへ向かった。
「晴明、茶」
「藍か。今日は、一段と可愛い格好をしておるのぉ」
「彰子にやられた。それより、ん」
 晴明にお茶を渡し、私は饅頭に齧り付いた。あむあむと饅頭を頬張る私の頭を撫でながら、
「いい加減、落ち着いたらどうじゃ。藍が正式にうちの子になれば、ぬらりひょんの息子も手出しは出来んじゃろうて」
「ここの菓子は美味い」
「ならうちの子に」
 晴明の勧誘を聞き流しながら、私は茶をズズッと啜り一息つく。
「私の胃袋は若菜と良太猫が握ってるから無理。ここの居心地も悪くは無いけど、あれのご飯が食べられなくなるのはヤダ。だから無理」
 はっきりと断る私に、晴明は予測していたのかあっさりと引いた。しかし、本当に引いたわけではなかったと悟るのは藍が鯉伴に連れられ奴良組に戻ってからである。
 昌浩がつけたピアスは、妖避けの呪いが掛けられており力の弱い妖怪に近付こうものなら失神する事態を引き起こした。
 そのせいで化け猫横丁から出禁止を喰らった私は、安倍邸に殴りこみに行ったのだった。
『フーッ!(外せ馬鹿ぁぁあっ)』

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