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330万打企画SS紫姫和己様リクエストA [ 9/11 ]


「猫の姿も可愛いけど、俺としては元の姿の方が良いんだけど」
『ミャー(虎だっつってんだろうが)』
 部屋に連れ込まれた私は、ちらりと昌浩を見てハァと一つ大きな溜息を吐いた。
 昌浩の唇に自分の口を押付け霊力を吸い取る。彼ら一族は天孤の血を受け継いでいるようで、時折先祖還りをする。それが、昌浩と云うわけだ。
 気を補充した私は、くるりと一回転し人型を取る。すると腕を引っ張られ抱き込まれた。
「藍が、俺の式になれば出入りも制限されないんだけど」
「縛られるのはゴメンだ」
 末端とはいえ神を式に下す辺り、昌浩の能力は本物なのだろう。
 しかし、式に下ったら束縛が厳しくなるのは目に見えている。絶対、奴良邸に帰れない。
「あいつから奪ってやるけどね」
「何か言ったか?」
「何でもないよ」
 ボソッと呟かれた昌浩の声に私は首を傾げ聞き返したが、胡散臭い笑みつきで誤魔化された。
「それで、私に用があったんだろう。人型に戻すくらいだし」
 用事はなんだと問い掛ければ、聊かムッとした顔をされた。
「用がないと本来の姿に会えないっていうの?」
「意思の疎通が出来ないんだからそういう事だろう」
 何言ってんだお前と言わんばかりに呆れた顔を作り昌浩を見ると、ハァと溜息を吐かれた。
「もう良いよ。藍が鈍いのは、今に始まったことじゃないしね。藍に渡したいものがあったんだ。ちょっと動かないでよ」
 そう言うと、私の耳に金属のようなものを当てるとバチンッと音を立てて何かを埋め込んだ。
「ニギャッ!?」
 ジンジンと熱を持つ耳に手を当てると、ピアスを埋め込まれていた。
「ギャーッ! 何しやがる」
「虫除けだよ」
 シレッと阿呆なことを宣う昌浩を見て、あれだリクオに似ているのだ。彼の場合も騙し討ちで首輪を付けられた。
「やっぱり藍には、朱が似合うな」
「勝手に人の耳にピアスホール空けておいて言うことか」
 ブツブツと文句を言いつつ、空けられてしまったものは仕方がないと諦めの局地を悟った私は、一体どんなピアスをつけたんだと卓上鏡を覗き込むと高そうな宝石が耳を飾っていた。
 一体幾ら掛かったのか聞くのが怖ろしい。三馬鹿といい、目の前の少年といい、私の周りには下らないことに金をつぎ込む輩しかいないのは何故だろう。
「これでウチの子って目印になるだろう」
「なるわけねぇだろう、このクソガキ。藍もなんで、天敵の家に遊びに行くかねぇ」
 いつの間に入り込んだのか、襖を背もたれにしながら胡乱気に昌浩を睨みつけている鯉伴が居た。
「陰陽師の家に不法侵入してタダで帰れると思うなよ」
「うちの猫にちょっかい掛けておいてタダで済むと思ってんじゃねぇぞ」
 睨み合う二人のせいで一瞬にして極寒と化した部屋で、私は違う意味で身を震わせた。
 意識が互いに集中している間に、私はそろりと部屋を抜け出した。

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