小説 | ナノ

20.傲慢領主と対面 [ 21/39 ]


 眠りこけている領主の顔面を容赦なく引っ叩き、文字通り叩き起こした。
「な、何だ貴様等は!?」
 状況が飲み込めていないのか目を白黒させて混乱している領主に、面倒臭いと思いながらも自己紹介をした。
「始めまして領主殿。私は、アブマド・サールジャ。父王の命により、アームドゥラの慰問に来た」
「は? 王子? 本当に王子なら先触れの一つでも寄こすのが普通だろう。盗人のくせに王子の名を語るとは愚かな奴め」
 未だ混乱している領主は、私の身分を明かしても信じた様子はなく言いたい放題だ。
「先触れを出して貴様の怠慢を隠蔽されたら裁けなくなるだろう」
 ニッコリと笑みを浮かべサルージャ王家の家紋が入ったナイフを机の上に刺して笑みを浮かべるとヒッと引きつったような悲鳴が上がった。
「何の権限があってワシを裁くと言うのだ」
「国王裁判所より逮捕状が出ている。本来なら憲兵が貴様の身柄を拘束するはずだったが、津波による被害が思った以上に大きく一時的に保留されていたに過ぎない。この度、慰問に訪れる私に父王より一任された。税の着服・横領、公的文書偽造……叩けは出ると思ったが、罪状を読み上げると切がないな。我が民を虐げた罪は重いぞ」
 逮捕状を突きつければ、領主は魂が抜けたように座り込んでしまった。
 抵抗されると面倒なので、罪人用の足枷を嵌めロープで縛り上げた。
 鮮やかとしか言いようのない手際に、一人呆気に取られているシンドバッドが思わず疑問を口にしていた。
「いつの間に取ったんだ?」
「そんなもん、ここに来る前に取ったに決まってるだろう」
 諜報に優れた人材を有する霧の団のお陰なのだが、シンドバッドに教える必要もないので敢えて言わないでおく。
「領主を逮捕した後は、どうするんだ? 荒れているのに、更に荒れるぞ」
「本国へ鳩を飛ばして、新しい領主を派遣して貰えばいい。それまでは、代理で私の部下がするさ」
 領主の部下がどれだけ使えるかはさておき、そろそろ他の連中も起きてくる頃だろう。
 私はシンドバッドに領主を任せ、この館で働く者たちを一箇所に集め事情を説明したのだった。


 悪徳領主が逮捕され、多少の混乱はあったもののバルバッドの救護隊と霧の団を中心に復興が進められていた。
 陣営に戻る筈だったが、それを許せる状況ではなかったため急遽カシムを呼び寄せたら、何故かジャファールと共に現れ二人揃って般若顔で説教をかました。
「まさか、領主のところへ殴りこみに行くとは。何かあったらどうするんですか!」
「俺は、貴方の護衛ですよ! それを置き去りにして!! 護衛の意味がないじゃないですか」
 ガミガミと叱る二人に言い訳をしようものなら、更なる怒声が待っている。無言を貫き聞き流していると、もぞもぞと足を動かしていたシンドバッドの頭にハリセンが落ちた。
「シン、聞いてるんですか! 足崩さない!!」
「ううっ…はい! 聞いてます!」
 ズパンッと痛そうな音が当たりに響く。厚紙で出来たハリセンのどこにそんな威力が潜んでいるのだろうか。
 物凄く痛そうに呻くシンドバッドをチラ見しながら、私は早く説教終わらないかなーと思っていたら、
「余所見しない!」
とカシムに容赦なく叩かれた、背中を。
「いってぇえー!!」
「喚くな。大体、人事のように説教を聞き流してんじゃねーよ! 膝に錘乗せんぞコラッ」
 悪鬼のような笑みを浮かべるカシムに、私はゾワッと悪寒を感じブンブンと首を横に振った。
 一瞬、マリアムが本気切れした時の顔に見えたなんて言えない。
「ジャファールさん、懲りてないみたいなんですけど」
「そうですね。やっぱり、ここはうんとキツイお仕置きが必要みたいですね」
 アハハ、ウフフと笑う姿が怖い。隣に座るシンドバッドも二人の異様な雰囲気に恐れをなしてガタガタと震えていた。
「「本当どうしてくれようか」」
 ドス黒い笑顔で浮かべる二人に、私とシンドバッドは速攻で土下座したのだった。

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