小説 | ナノ

14.百聞は一見にしかず [ 15/39 ]


 グロテスクな魚のわりに意外と美味しかったジャーファルの料理を堪能しつつ、そうこうしている内に私達はアームドゥラに到着した。
 港だった場所は、数十センチも地盤沈下し無残な姿になっている。船を停泊できそうな場所を探し岸に寄せて陸へと降り立った。
「……酷いな」
 瓦礫と泥が辺り一面を覆い尽くしている。事態は、思っていた以上に深刻だった。
「ここから5キロほど先に小高い丘がある。まずは、そこまで行って簡易の救助基地を設営しよう」
「別にこの辺りでも良いのでは?」
 私の提案に、ジャーファルが首を傾げ何故小高い丘まで移動するのかと問い掛けてきた。
「巨大津波が起こるほどの大きな地震です。余震も大きいでしょう。海の近くに基地を設営したら、私達まで津波に飲み込まれてしまいます」
 台風・地震と災害の多い国に生まれ育った私は、地震の怖さを身を持って知っている。
 余震は、当分の間続くだろう。過去にこの地で似たような災害が起きていたか調査する必要もありそうだ。
「なるほど、一理ありますね」
 アームドゥラの詳細な地図を開きながら救助の拠点となる場所を決め、足場の悪い道を進みながら丘へ向かって歩き出した。


 半日掛けて辿り着いた丘で、料理班と設営班に別れ手分けをして仮設住宅を建てているとシンドバッドが、興味深そうにそれを見ていた。
「何してるんだ?」
「組み立て式の仮設住宅を建ててるんですよ。見てるだけならあっち行って下さい。邪魔です」
 シッシッと手で追い払いながら、組み立てる人間に指示を飛ばした。方角や建てる位置を確認しながら取敢えずは、三棟の仮設住宅と仮設トイレ、仮設のシャワールームが完成した。所要時間は2時間である。
「快速船を見たときも思ったが、この辺りでは見ない記号が書かれているがこれは一体なんだ?」
「企業秘密です。それよりマジ邪魔ですからあっち行って下さい」
「棒切れ持って邪魔と言われてもなぁ」
 何をするのか興味津々なシンドバッドは、素気無くされても一向に気にすることなく纏わり着いてくる。おっさんウゼェ。
 カシムが傍にいたら押付けられるのに、彼は現在夕飯作りに勤しんでいる。マスルールは、荷物運びに借り出されていて誰もシンドバッドを気に掛けるものはいなかった。
「……今から防御用の譜陣を敷くんです」
「ほぅ、そりゃ面白そうだ」
「私は、面白くもなんともありません」
「まあまあ、良いじゃないか」
 何を言っても無駄と判断した私は、シンドバッドの好きにさせることにした。
 邪魔したらぶっ飛ばしてやると物騒なことを思いながら、建物の周囲を囲むようにガリガリと地面に譜陣を書いていく。少々歪な円の中に、フォニック文字がギッシリと書き連ねた。
 円の中心に戻り木を地面に突き刺しユリアの第二譜歌を歌いフォースフィールドを発動し陣と連結させより強固なものにした。
 淡い光を放っていた譜陣は、フォースフィールドと連結したことで地面に溶け込み消えてしまう。
「さっき船で怪魚から守った魔法と一緒だな。それとは少し異なって見えるが、どうなっているんだ?」
「あれは、その場凌ぎで咄嗟にシールドを張ったものです。これは、先ほどの譜術と地脈を直結させることで永続的な防護壁を作り出したに過ぎません」
 安全確保は大事だと豪語する私に、シンドバッドはムムムッと難しい顔で唸っている。
「アブマドは、本当にマギじゃないのか?」
「知りませんよ」
「他人のルフを使役できるのはマギの証だ」
 シンドバッドからしてみれば、私はそこら辺に飛んでいるルフを使役しているように見えるらしい。
 譜術師であって魔導師ではない。似ているけどカテゴリーは違うし、この世界の魔法と言われるものは使えない。
 この世界の魔法使いと言われる者はルフに命令して魔法を駆使するが、私はルフと呼ばれる鳥を取り込み己の魔力に変えて発動させている。使役なんてとんでもない。魔力の糧にしているだけである。
「貴方の勘違いです。私は、そんな大層な存在じゃありませんから」
 いい加減このおっさんどうにかして欲しいなーと思っていたら、タイミングよく夕飯の支度を終えたカシムの姿を見つけ声を掛けた。
「カシム!」
「アブマド王子、夕飯の支度出来ました。……何で二人っきりになってんですか」
 小走りに近寄ってきたカシムが、私を背中に隠すようにシンドバッドとの間に立ちはだかり小声で文句を言ってくる。
「さっき見せた譜術に興味持たれて纏わりつかれたんだよ」
 そう答えると、彼は納得いったのか嗚呼と感嘆した。
「マブマド王子の使う魔法は珍しいですよね」
「そうなんだよ! 君も気になるだろう!!」
「あ、そうっすね」
 仲間を得たと言わんばかりに人の話に乗りかかってくるシンドバッドをカシムは嫌そうな顔で受け答えしている。
「食いっぱぐれるんで行きましょう」
 カシムは、シンドバッドを軽く無視しながらグイグイと私の背中を押した。それはちょっと不敬じゃないかと思ったものの、質問攻めにされては堪らないと思ったのも事実で私はそれに乗り二人して彼を無視して歩き出した。

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