小説 | ナノ

15.無駄は嫌いなんです [ 16/39 ]


 翌日、早朝から本格的に行動するべくシンドリア組・バルバッド組の合同救助活動の打ち合わせを行った。
「まず、人命救助が最優先で動いて欲しい。万が一、死体に遭遇した場合は速やかに報告して下さい。死体放置は疫病を引き起こしかねません。ここより少し下がった場所に火葬場を設置します。重労働だとは思いますが、そこまで運んで下さい。歩ける者は誘導を、歩けないものは担架などを活用し運びましょう」
 自動車なんて高度な物はないので、リヤカー(組み立て式)で運ぶよう指示を出す。
「医療班・炊き出し班は待機しつつ、ジャーファル殿の指示を仰いで下さい。マスルール殿は、救助隊と同行をお願いします。カシム、指揮は任せる。マスルール殿とザイナブと連携して対応するように」
 テキパキと仕事を割り振っていると、名前を呼ばれなかったシンドバッドが挙手をして自分はと聞いてきた。
「俺はどうしたら良い?」
「大人しくしてて下さい」
「その心は?」
「邪魔だからです」
 ズパンッとシンドリアの王を邪魔と断言した私に、誰も反論しない。それもそうだ。
 駄々を捏ねてついてきた割に、何の役にも立ってないのだから仕方がない。
「そんな言い方ないだろう」
「そんな言い方もどんな言い方もありませんよ。雑用はおろか、料理もできない。書類整理をお願いすれば、折角国の外に出たのにやりたくないと文句を零したじゃないですか。居ても居なくても変わらないならそこで大人しくしてて下さい」
 ピシャリと言い放てば、ジャーファルがうんうんと深く頷いている。目の前の子供みたいな王様に相当苦労させられているのが良く分かる。
「ジャーファルもマスルールも俺の部下なのに……」
「十分過ぎる見返りを用意したでしょう。今更グダグダ言うな」
 相手にしている時間も惜しいと私は話を切り上げた。本格的な救助活動が始まり、話を聞きつけた領民が一人二人と集まってくるようになった。
 ジャーファルという男は、色んな意味で有能だった。
 噂には聞いていたが、バルバッドでもここまで有能な文官は居ないだろう。
 どちらかと言うと、一芸に秀でている者が多い。そのせいか『補い合う』精神が育っている。
 一人で何役もこなせるジャーファルは、ある意味器用貧乏と言えそうだ。
「ジャーファル殿、悪いがここを任せても構わないか?」
 救助活動の本部を一任すると笑顔で言えば、目を白黒させている。突発的な出来事には弱い人なのかもしれない。
「責任者が居なくなるのは困ります」
「貴方を含めてみんな優秀だから私が居なくともちゃんと回りますよ。それにアームドゥラの領主に会わないといけませんし。ニ、三日頑張って下さい」
 笑顔でそう言い切れば、ジャーファルの眉間に深い縦皺が刻まれた。可愛い顔が勿体無い。
「可愛いは余計です」
「あははは、うっかり本音が零れてしまいました。じゃあ、行って来ます」
 これ以上ここに居たら雷が落ちそうだ。私は、片手を上げて脱兎の如く逃亡を図る。
「ちょっ、待ちなさい!!」
 ジャーファルの怒声が聞こえるが、そんなの気にしていたら一国の王子など務まらない。
 王族は、人を上手く使い分けて仕事を与えるの仕事なのだ。
 ジャーファルの気配が感じられなくなり走っていた足を歩みに帰ると、ポムッと肩を叩かれた。
「うわぁぁぁああっ!!」
「何もそんなに驚かなくても良いじゃないか」
 耳を両手で塞ぎながらブーブーッと子供みたいに文句を宣うシンドバッドを見て唖然とした。
「何であんたがここに居る!!」
「暇だったから付いて来た。領主んところに行くんだろう。一人では危険だ! 俺も行く」
 護衛を買って出ているが、単に暇こいていたので気になって付いて来たと言うのがオチだろう。
 どうしよう。サブマドやマリアム、果てはカシムにまで口すっぱく二人っきりになるなと言われていたのに自ら二人っきりになる原因を作たようなものではないか。帰ったらどやされる。
 頭を抱えて呻く私を余所に、目の前の元凶は意気揚々としている。
「これでも王宮剣術をマスターしてるんで結構です」
 基地へ帰れGO HOME! と元来た道を指差すが、シンドバッドは図太かった。
「大丈夫、俺は強いからな! 野宿も日常茶飯事だ」
と、豪語した。着いてくるなと言っても無駄な気配がありありと感じられ私は早々に諦めた。人間何事にも諦めが肝心である。
「もう良いです。遅くても三日で戻ると約束してるんで、着いてこれなければ捨てていきますから」
 私は、シンドバッドは居ないものとしようと心に決め領主が住む屋敷へ向かって駆け出した。

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