小説 | ナノ
13.怪魚現る [ 14/39 ]
シンドリアに求めたのは、救助隊の護衛と現地での住民救助である。
三日の停泊の後アームドゥラへ向けて出立したのだが、この船で異彩を放つ団体を見つめ眉を潜めた。
「何であの人ついてきたんですか?」
「連れて行かなきゃ行かせないって言うんだもん」
女をはべらしながら会話を楽しんでいる。その中に気の強いザイナブでさえ、頬を赤く染めている。珍しい光景だが、彼氏が嫉妬の眼差しで睨んでいるのに気付いて欲しい。
「必要以上に近付かないで下さいよ。俺が、マリアムにどやされるんですから」
この台詞何度目になるだろうか。懇々と言い聞かせるようにシンドバッドに近付くなと念押ししているカシムを無視して、ボーッと空を眺めていたら中を舞っていた白い鳥がざわめき始めた。
異変に気付いたのは、私とシンドバッドだけのようだ。
「船長、面舵いっぱい! 甲板にいるものは、全員中へ非難しろ!!」
声を張り上げ船内に入れと命じるが、唖然としている者が殆どでボサッとしているカシムを怒鳴りつけ皆を船内に誘導するように命じた。
「堅甲たる守り手の調、クロァリョセトゥェリョーレィレーィリョセー!」
中を舞っていた白い鳥が、私の周りに集まり魔力へと変換される。巨大な譜陣が浮かび上がり光の天蓋が船を覆った。
その直後、ドンッと何かがぶつかる音がし船が大きく揺れた。
「な……」
見たこともない怪魚の出現に、私は唖然とする。この沖合いで、このような危険生物が出現するなど報告にない。一体、何時から現れるようになったのだろう。
「な、なんだぁ!?」
シンドリア特有の南海生物とは違うそれに、私はギリッと唇を噛み締めた。
焦る私の肩をポンと叩かれ、振り返ると大丈夫だと笑みを浮かべるシンドバッドの姿があった。
「ジャーファル、マスルール。あいつの動きを止めてくれ」
「分かりました」
「……すっ」
いつの間に傍に居たのか。全然気配を感じなかった。
「アブマドは、下がってなさい。後は、俺達で片付ける」
宣言通り、シンドバッドたちの一方的な力で怪魚は退けられた。否、戦利品とばかりに解体した魚肉をどう料理しようかと相談している。
「……シンドバッド王よ」
「ん? どうした?」
「それ……食べられるんですか?」
旨い以前に、見た目からしてグロテスクな一応魚な部類のそれを指差して恐る恐る質問したらキラキラしい笑顔で肯定された。
「多分大丈夫っす」
「だとさ。美味かったら燻製にして保存食にするのも良いぞ。ジャファール、適当に料理してくれ」
どっちゃりと盛られた魚肉を前に嬉々として腕まくりをしているジャーファルから私はそっと目を反らした。
「料理が出来るまでの間、アブマドは王様とお話だ」
ガシッと肩を組まれ逃げ出すに逃げ出せない。耳元に唇を近付けられ、ぞわっと怖気が背中を這い上がった。
「さっきのあれは何だ? 君は、マギなのか?」
シンドバッドの指すあれの意味が分からず首を傾げたが、後に私の譜術はこの世界では異質な存在であることを知ることとなる。
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