小説 | ナノ

初 詣 [ 4/6 ]

季節が巡り、またお正月がやってきた。
中学1年の時とは違い、今年はリクオ君と2人だけで神社に参拝する。
お母さんに着物を着付けて貰いながらも、元旦を2人きりで過ごせるなんてすごくドキドキしていた。
「佐久穂。今日は楽しんで来るんだよ」
かっはは、と豪快に笑いつつ背中をバシンッと叩かれる。
私は思わぬ衝撃に「わっ」と、よろめきつつも「うん。行ってきます」と言い玄関のドアを開けた。
と、そこに何故かリクオ君が立って居た。
私を見たとたん目を丸くし少し頬を赤く染める。
そして、慌てたように口を開いた。
「あ……、明けましておめでとう。佐久穂ちゃん。」
「あ、けましておめでとうございます、って、えっと……バス停で待ち合わせだった、よね? どうしたの!?」
吃驚して思わず目を見張ると手を握られた。
「うん。でも、早く逢いたかったんだ。嫌だった……?」
私はその言葉に思い切り首を横に振った。
「ううん。うれしい……」
「そっか。良かった!」
ニコッと明るい笑顔を向けられ、何故だか心が温まりすごく嬉しくなる。
リクオ君の笑顔につられたように笑っていると後ろからお母さんが現れた。
「ん? 坊主。久しぶりだねぇ。佐久穂を迎えに来たのかい?」
「あ! 響華ちゃんのお母さん、お久しぶりです! 今日1日佐久穂ちゃんをお借りしていきます!」
「ああ、正月は友達皆と過ごすのも良い経験さ。佐久穂を頼んだよ」
「はい!」
リクオ君は明るい笑顔で頷く。
あ、れ? ちょっと待って? お母さんにリクオ君と2人で神社に行くって伝えてたっけ?
私は自分の言動を思い出す。
元旦に神社へと出かけても良いか聞いた時、お母さんは快く承諾してくれた。
でもその時『リクオ君と』って伝えたかな?
あ、れ? 伝え忘れてる?
どうしよう、と思っている内にリクオ君から手を引っ張られ、家を出た。
石コンクリートを敷き詰めた歩道を指を絡めながら2人並んで歩く。
リクオ君は鼻の頭を軽く掻くと少し頬を染め、口を開いた。
「佐久穂ちゃん。今日は、その、すごく可愛いね」
その言葉に私は自分の姿を改めて見た。
薄い水色に金色の縁取りの入った白い花模様が入っている着物にピンクの帯。
そして白い羽毛のショールを首に付けていた。
髪は纏め白と淡いピンクの花飾りを付けている。
うん。この着物の柄とか可愛いよね。
私はお母さんが選んでくれた着物を褒められて、なんだか嬉しくなり頷いた。
「うん。お母さんがこれ着て行け、って着せてくれたの。着物褒めてくれてありがとう!」
笑顔でそう返すとリクオ君は慌てて首を振った。
「うえ!? 違うよ! 佐久穂ちゃんが可愛いって言ってるんだよ!」
その率直な言葉に私は頬が熱くなった。
繋いだ手も熱い。
「え、と……。あ、りが、と…」
「でも、いつもの佐久穂ちゃんも可愛いよ」
ギュッと絡められた指に力が籠もる。
私はなんだか恥ずかしくなり、俯いて地面を見た。
リクオ君は、いつもカッコ良く思えると言おうと口を開くが、どういう風に言葉にして良いか分からず、うまく言葉が出ない。
そんな私を引っ張ってくれつつ、リクオ君は違う事を口にした。
「ね。佐久穂ちゃんの今年の抱負は何?」
「……、え? 抱負?」
私は話題が変えられた事に気付いて俯いていた顔を上げた。
リクオ君は澄んだ目で頷く。
今年の抱負…、抱負……
決意か志望って事だよね?
私は絡められた指から、リクオ君の熱を感じながら、考え込む。
出来れば、今年もリクオ君の傍にずっと居たい。
でも、多分それはきっと迷惑な事。
リクオ君の役に立てればいいんだけど、人間としても妖怪としても未熟な私は、何も出来ない。
私の出来る事ってなんだろう?
眉を顰めているとリクオ君が顔を覗き込んで来た。
「ごめん。困らせちゃった? すぐに今年の抱負言ってって言っても無理だよね。アハハ」
眉を下げて苦笑するリクオ君に私は首を振った。
「ううん。リクオ君は悪く無いよ。えっと、抱負はあるんだけどそれに対して何も出来ないな、って思ってたの。リクオ君の抱負は?」
「そうなの? ボクの抱負はもっと良い人間になる事。それと佐久穂ちゃんと奴良組を守りたいなって思う」
「わ、たし?」
え? え? 奴良組だけじゃなく、私まで守りたいって思って、くれてる!?
その想いに胸の奥がジンとし、何かが込み上げて来た。
私はリクオ君の肩に額をくっつけた。
「ありがとう……」
大好きです。
この想い。触れた場所から、伝わって欲しい。
その後、身体の距離を縮めながら歩き神社に着く。
と、流石元旦なだけあってすごい数の参拝客が居た。
2人ぎゅっと手を握り締めながら、人の流れに乗り、お参りをする。
昨年の戦いを思い出しつつもリクオ君が大きな怪我をしませんように、とお祈りをすると甘酒を配っているテントに寄った。
と、そこには清十字団が勢揃いしていた。
「み、皆!?」
吃驚するリクオ君に清十字団の皆は口々に声を掛けて来た。
「おぉ! 奴良君に#朝倉#さんじゃないか!」
「2人が居るって事は及川さんも居るって事っすよね! って、アレ? 及川さんは?」
「あけおめー。奴良、デート? やるじゃん。」
「そっか。だからつららちゃん居ないんだ」
「2人共、明けましておめでとう。」
リクオ君を見て喜ぶワカメ君に、キョロキョロ周りを見回す島君。
そして巻さん、鳥居さん、カナちゃんは笑顔で私達を迎えてくれた。
リクオ君は何故か複雑そうな顔をしていたが、それをペカッとした笑顔で隠し皆と話しだした。
私はそれに気付き、どうしたんだろう? と心の中で首を傾げる。
だが、貰った甘酒で身体の中が暖まると、その表情の変化の謎を忘れてしまった。
リクオ君と2人で居るのも心がポカポカとなってすごく嬉しいが、友達とおしゃべりするのも楽しい。
そんな私に巻さんがニヤニヤと笑いながら質問をしてきた。
「で、奴良とどこまで行ったの。」
「え? どこまでって…」
どういう意味だろう?
首を傾げていると巻さんは、次にリクオ君の腕を小突く。
「オラ。避妊はちゃんとしてんの?」
それにリクオ君は甘酒をブッと吹いた。
「な、な、な、なんで!」
「ハハーン。紗織様は全てお見通しよ!」
「何、何? 佐久穂ちゃんと子供作ったの?」
脇で聞いていた鳥居さんが巻さんの言葉を曲解する。
更にワカメ君が何故か食いついて来た。
「なにぃ!? 主の子供だって!? #朝倉#さん! バンバン産みたまえ!」
「ちょっ、皆、気が早いよ!」
慌てるリクオ君を置いて、皆の話しはヒートアップする。
と、言うかなんで私とリクオ君の子供の話しになったんだろ?
でも、将来、リクオ君の子供をこの腕に抱けたらいいな、と思う。
そう思いつつ盛り上がる皆を見ながら、目を細め胸に手をやった。
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