小説 | ナノ

7.スラムの住人と私 [ 8/39 ]


 集合住宅が軒を連ねる一角に足を踏み入れると、どこからともなく子供達が顔を出して突進してきた。
「王子だ!! おかえりー」
 勢いよく腹に減り込むチビッ子達の体に、思わず意識が遠のきかけた。
「……お前ら、荷物持ってる時にタックルするなと言っているだろう」
「えー」
「昼食べたもんがリバースして持ったないだろう」
「気にするところが、そこかよっ!」
 ぶーたれる子供に、真顔で説教していたらカシムからの突っ込みが入った。
「そこしかないだろう」
「兄上、違うと思います。そこは、危ないと言うべきかと……」
 少々疲れ気味なアリババの指摘に、私はケロッとした顔で宣う。
「子供のタックル如きでどうこうされてしまうような軟弱な体はしてないぞ」
「「……もういい(っす)です」」
 私の言に何言っても無駄と悟った二人は、貝のように口を閉じた。
「王子、女の子の格好してる」
「女の子みたい。可愛い〜
「すごく似合ってるよ!」
 私とアリババの格好を見てテンションを上げる少女達に、私は曖昧な笑みを浮かべて口をつぐんだ。
 女だったら、男の娘になったアリババに興奮し彼女等に混じってキャイキャイ言ってただろう。
 今は、悲しいかな男。変装の一環で女装している自分を褒められてもなかなかに複雑な気分だ。
「ちゃんと勉強してるかい?」
「今はねー、休憩時間なの! 王子もサボるのは程ほどにしないとマリアムに怒られるよ」
 可愛い笑顔で怖ろしいことを宣う彼らに、私は笑顔で固まった。
 そうなのだ。カシム共々マリアムも城に召し上げ教育を施したら、政治の師であるメンギスツ・ハイレ女史の影響が強く出るようになった。
 可愛い笑顔でえげつないことを宣ったり、息抜きに視察へ行こうとするとバッサリと一刀両断し、部下と組んで執務室の椅子に縛り付ける。
 なまじ頭が良いだけに、カシムよりも扱いにく育ってしまった。マリアムの顔を思い浮かべた瞬間、ぞわりと悪寒が走りブルリと体を振るわせる。
 頭を軽く振り気を取り直して、私は言った。
「今日は、ギルドにお仕事を持ってきたんだよ。これは、兄弟達にお土産だ」
 お菓子や果物と言った食べ物が詰まった紙袋を手渡し、皆で仲良く分けるんだよーと付け加えるのも忘れない。
 良い様に操作されている気もしなくもないが、三年前に比べれば随分と環境は改善された方だ。
 食べ物の誘惑にあっさりと意識を奪われた子供達見て、カシムは盛大な溜息を一つ吐いた。

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