小説 | ナノ

6.バルバッドの縮図 [ 7/39 ]


 広大な途中を有する海洋国家バルバッド。本土は、街ほどの大きさしかないが周辺の島々を支配し、各地方との交易の中心地として栄えている。世界有数の貿易国と言って良いだろう。
 時折城を抜け出しては、城下を徘徊しているが単にサボっているわけではなく、一種の抜き打ち視察でもある。
「兄上……」
「なんだアリババ。似合ってるぞ」
 裾が広がったパンツとピッタリとしたシャツ、腰にはカラフルな模様が織り込まれたスカーフを巻いている。テーマは踊り子らしい。
「カシムは普通なのに、何でオレだけ……」
「何を言う。私も同じ格好じゃないか」
 色違い柄違いの格好で仁王立ちする私に対し、眉間に深い皺を刻んだカシムが「そうじゃねーだろう」とぼそりと呟いた。
「お忍びで着てるのに、バレたら面倒臭いことになるだろう」
「だからって女装……」
「容姿も武器の内だ。アニスに似て美人だから女に見える。大丈夫だ!」
 親指を立てて変声期前だから声もアルトボイスな女の子で通ると力説すれば、更に落ち込ませた。
「もうあんたは、黙ってて下さい」
「私から口を取ったら何も残らないじゃないか」
「……視察すんでしょう。行かなくて良いんですか」
「勿論行くとも!」
 出発だと意気揚々と先頭を切って歩き出す私に対し、アリババは暗雲を背負いながら、カシムは仕方がないと苦笑を浮かべながら追いかけてきた。
 港に近付くにつれ活気が溢れている。店を冷やかしながら見て周り、アリババに問い掛ける。
「アリババ、何か気付かないか?」
「何かって何がですか?」
 キョトンと目を丸くし首を傾げる彼に、私は店に出された塩を指差して言った。
「塩が高い」
「高いと言っても、気にならない程度だと思いますが」
「一月前に比べて1割も高騰している。塩の高騰など早々あるものではない。このまま、高騰が続くと他の物価まで高騰するぞ」
 塩は、人の生活にとってなくてはならないものだ。それが手に入りにくくなると、白い砂を混ぜて塩を売り出す者も出てくる。
「原因を調べる必要がありそうだ」
「兄上、あいつらに頼みますか?」
「そうだな。兄弟たちの様子も見に行くつもりだったからな。それより、この格好の時はその呼び方は止めろ」
 ギロッとアリババを睨みつけると、彼は視線を彷徨わせた後、小さな声で姉上と言った。
 それもどうかと思うのだが、偽名で呼ぶなりすれば良いものを変なところで真面目な弟である。
「あんまり危ないことに首突っ込まないで下さいよ」
「それは聞けない約束だな。アリババ、兄弟達に土産を買うぞ」
 カシムの小言をスルーしながら、私は土産と称し日持ちする食べ物を購入した。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -