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5.末弟は大変優秀でした [ 6/39 ]


 次期国王にするべく、厳選された家庭教師をアリババに付け知識を叩き込んだ。
 勉強はあまり好きではないようで、カシムと共に泣き言を漏らしていたが、スポンジのように知識を吸収する様は見ていて楽しかった。
 スラム出身を引け目に思っているのか、謙虚過ぎて涙が出そうだ。
「アリババ視察だ! カシムも居たのか。探す手間が省けた。さあ、行くぞ」
 ガリガリと机に齧り付き問題を解いているアリババと、見習い護衛として入口に立っていたカシムに声を掛けた。
「あんた、どっから入ってんですかーっ!!」
「窓から。一々気にしてると禿げるぞ、カシム」
 ヨジヨジと窓に足を掛けて難なく侵入する私に、
「そういう問題じゃねーだろうがぁああっ」
とカシムは素で怒鳴り返して来た。王宮に来た当初に比べて護衛らしく外面が取り繕えるようになってきたが、突発的な出来事にはまだ素が出てしまうようだ。
「兄上、俺まだ勉強が終わってません」
「アリババは真面目だなぁ。後で教えてやるよ。外に出て街を見るのも勉強だ」
 ヘニョリと眉を下げているMY弟の頭をグシャグシャと撫で外へと連れ出そうとしたら、カシムが白い目で私を見て言った。
「アリババ、騙されんな。尤もそうな理由を付けるが、こいつはお前をダシに遊びに行きたいだけだ」
「良い読みだが、まだまだ甘いなカシム君! シンドリアから来客があってね。ぶっちゃけそいつに会いたくないんだよ」
「尚悪いわっ! アリババの邪魔すんな」
 グイグイッと私を部屋から追い出そうとするカシムの腕を掴み、もう片方の手でアリババの襟を掴み窓の外へ容赦なく放り投げる。ドサ、ベシャッという音は聞かなかったことにしよう。
「五月蝿いのが来る前に行くぞ!」
「っ……もう知らねーからな!」
「……兄上、強引過ぎます」
 ハァと溜息を吐き諦めムードのアリババと正反対のカシムを見て、本当に良いコンビだと笑みを深めた。


 城を抜け出し、先ず来たのは城から程近い一軒家。と言っても、高級住宅地なので屋敷と呼んでも良いくらいの大きさだ。公務をこなすようになり、私の懐にも給与が入るようになってから購入した家は、今やスラムで家を失くした者たちの住居となっている。
「ただいま」
 勝手知ったるなんとやらで、ズカズカと入るのもいつものこと。
「王子、お帰りなさい」
「アリス、また太ったか?」
 庭掃除していた子供が、箒を持ってパタパタと駆け寄ってくる。それを捕まえ抱き上げながら体重を量っていたらポカリと頭を叩かれた。
「レディに向かってしつれーよ!」
「標準体重には程遠いから安心しなさい」
 ポムポムと頭を軽く叩くと、ぷくぅと頬を膨らまし不満そうにしていたが、それを引きずることはせず今日はどうしたのかと聞いてきた。
「王子、今日もサボタージュ? ダメよ。ちゃんとお仕事しなきゃ」
 メッと叱る姿は可愛いのだが、後ろで私達の会話を聞いていた二人が吹き出して肩を震わせている。
「アリス、もっと言ってやってくれ。俺が言っても聞きやしないんだ」
 カシムの一言に、アリスから物凄く呆れた視線を頂いた。
「王子、カシム兄ちゃんの手を煩わせちゃダメよ。アリババ王子まで巻き込んで」
「アリババの為に社会見学をしに来たんだ。偶には、息抜きも必要だろう。公務は、ちゃんと終わらせてあるし問題ない」
 ハハハハと取り繕うように笑う私に対し、じっとりとした視線が突き刺さる。アリスにまで信用がないのか、私は。
「着替えを用意してくれるかい。コーディネートは任せるよ」
「わかったわ」
 私の腕から降りたアリスは、一足先に屋敷の中へと入っていった。今日は、どんな服を用意してくれるのか楽しみだ。

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