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少女、悟りを啓く [ 28/41 ]


 高淤神が勝手に昌浩の嫁発言したせいで、十代半ばで伴侶が強制的に決まった藍です。
 機嫌は地を這うように悪く、出迎えた昌浩と物の怪を睨みつけた後、我ながらドスの利いた声を出したと思う。
「二人とも面かしな」
 顎をしゃくり後についてくるようにと命令した。特に物の怪は、ビクッと身体を大きく震わせ挙動不審だった。
 てくてくと長ったらしい渡殿を歩き、晴明の部屋の前に立つとスッと妻戸が開いた。
「お帰りなさいませ、藍様」
「ただいま天一、晴明殿に話があるのだけど」
「主も首を長くして藍様の帰還をお待ちでしたわ」
「私は、今すぐここを出て行きたいのだけどね」
 ボソッと本音を零せば、昌浩がギョッとした顔で詰め寄ってくる。
「何で? ハッ、じい様が藍に無茶難題を強いたり、おちょくったりして居るのが嫌になったの!?」
「昌浩じゃあるまいし、そんなことで出て行く理由になるわけないでしょう」
 まるっきり自分に置き換えて喋る昌浩に、私は呆れ顔で彼を見やる。
 晴明はというと、相変わらずニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべている。ムカつくな。
 私は晴明の前に腰を下ろし、昌浩と物の怪にも座るように促した。
「して、どうでしたかな?」
「遠見で覗き見してたのに聞くのね」
「報告して下さる為に昌浩を連れて来たのだろう」
 ホケホケと笑う晴明の態度に怒りのバロメーターが振り切れそうになった。
 恐らく晴明は、こうなることをある程度予測していたのだろう。
 していた上で、私に交渉をさせたに違いない。
「……チッ、この狸ジジイめ」
「はて、耳が遠くなったかのぅ」
 嘯く晴明に、私は米神に青筋を立てながらサクッと事の顛末を話した。
「高淤神の取成しのお陰で相手の神様も怒りを鎮めて下さいました」
「よかったぁ……」
 その言葉に安堵する昌浩と物の怪に、私は追い討ちを掛ける。
「昌浩、喜んでいるところ悪いけど。高淤神が『藍は昌浩の妻だ』と断言してくれたせいで、私と結婚する羽目になるのよ」
「え? ええっーー!!」
 顔を赤くしたり青くしたりと忙しい昌浩を余所に、先に復活した物の怪が神妙な顔で問い掛けてきた。
「は? 一体何がどうなってそうなったんだ」
「眷属の蛙を助けた恩人の夫を祟るわけにはいかないって許されたの。高淤神は、私と昌浩の間に出来た子を虎視眈々と狙ってるみたいだけどね。霊力は抜群に高いもの私達」
 子供と聞いて、昌浩は顔を真っ赤にして頭を抱えて唸っている。
 昔は早婚が主流なのだが、何の益にもなりそうにない女を娶るのは抵抗があるのだろうか。
 昌浩の葛藤は分からないでもない。私も将来有望そうではあるが、何れは元の世界に帰るのだ。この世界で第二の人生を送る気など更々無いのだ。
「ふぉふぉふぉ、神様公認か安倍家も安泰じゃのぉ。藍殿、ワシが祝言を挙げる日を占っておるでな。決まったら知らせよう」
「全然嬉しくないですけど、どうも。じゃあ、報告終わりましたんで戻ります」
 私は、呆けている昌浩の襟を掴みズリズリと引きずり退室した。


 一人別世界に飛んでしまった昌浩はさておき、物の怪が渋い顔をして問い掛けてきた。
「お前は、良いのか?」
「良いとは、何が?」
 散乱している巻物を片しながら物の怪の質問に質問で返すと、ウガァッと奇声を上げながら食って掛かるように文句を言われた。
「昌浩と夫婦になるのは良いのかって聞いてんだよ」
「その原因を作ったヤツが言う台詞か」
「うぐっ…・・・そりゃ悪かったと思ってる」
 ボソボソとばつ悪そうに喋る物の怪を邪魔だと足で退かし、書物を棚に片付けていく。
「取敢えず形ばかり夫婦になって、ほとぼりが冷めたら分かれれば良いし。妻になった事実があれば問題ないでしょう」
「いや、問題ありまくりだろう!」
「何がよ。別に三行半状を叩き付けるわけじゃないんだから。最初から別れる前提で夫婦になった方がお互い良いでしょう。この先、好きな人が出来るかもしれないんだし」
 そう言ったら、昌浩が物凄い形相で振り向いた。
「藍、好きな人がいるの!?」
「今は、居ないわよ。昌浩だって将来好きな人が出来たらその人と一緒になりたいでしょう? その時、私が妻の座に収まっていたら相手にも悪いしね」
「……昌浩や、そう落ち込むな。まだ、機会はあるぞ」
 私の言葉にショックを隠せず打ちひしがれる昌浩を痛ましそうに見守る物の怪がいた。

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