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少女、大暴走に巻き込まれる [ 29/41 ]


 一夜明けて、物凄く上機嫌な露樹と物凄く不機嫌な彰子を目の当たりにして逃げたくなった。
「でかしたわ、昌浩。それでこそ私の息子。藍さんは、色が白いから白無垢も映えるわね。柄は何が良いかしら」
「藍殿、祝言の日取りじゃが二週間後の中秋の名月に行うと良いと出た。大安吉日申し分なし! 場所は、神泉苑を貸切って行えば良かろう」
「まあ、素敵ですわ。お父様!」
 二人してテンション高く結婚式の日取りやら場所やら衣裳やらを当人そっちのけで勝手に決めている反対側で、暗雲を背中に背負い昌浩の胸倉を掴み詰め寄る彰子の姿に般若を見た。
「昌浩、一体どういうことなの!!」
「いや、あの……それはだね」
「言い訳は結構! 藍姉様には私がいるのに、結婚するなんてどういう了見よ」
「えっと……藍助けて」
 ギリギリと絞殺しかねない勢いで首を絞めている彰子から逃れようと昌浩がHELPを出してくるが関わりたくないので無視した。
「藍ーっ」
「お姉様の名前を気安く呼ばないで!」
 キーッとヒスを起こし昌浩に食って掛かる彰子の姿は、嫉妬に焦がれ我を忘れた女にも見えるが嫉妬の対象が昌浩なのが悲しい現実だった。
「……カオスだわ」
「そのカオスとはなんだ?」
 非難を決め込んでいる物の怪は、ちゃっかりと私の隣を陣取りお座りしている。
「外国の言葉よ。こちらの言葉に訳せば、無秩序・混乱・混沌と言ったところかしら」
「嗚呼、なるほど。確かにそう云われればそうだな」
 方や祝言だと浮かれている連中がいる反面、嫉妬に狂った彰子に新郎になろうという昌浩は首を絞められている現状に物の怪はうんうんと納得したように頷いている。
「彰子姫、そのくらいにしておいて貰えないだろうか。昌浩が、死んでしまいかねない」
「私のお姉様を横取りする泥棒猫なんてこの手で縊り殺してやるぅぅうっ」
 どちらを止めるか迷っていた吉昌が、彰子を宥めてみるが逆に煽ってしまい失敗に終わる。
 彰子の説得は無理と判断した吉昌は、妻の露樹と父である晴明の説得に乗り出したが、
「つ、露樹、父上も藍殿の気持ちを考えて下さい」
「藍さんもこの縁談を受けて下さってるのに反対するの?」
「二人が結婚しなければ、仲介を頼んだ高淤神の顔にも泥を塗ることになるんじゃぞ。祟られたいか?」
と半分脅しを含んだ返事を返され吉昌は言葉を詰まらせた。
「藍殿……」
 チワワのような目でうるうると助けを求める吉昌に、私はハァと溜息を吐いた。
「彰子、昌浩から手を離しなさい」
「でも、藍姉様……」
「いいから放す。で、そこ! 露樹殿、白無垢は結構です。晴明殿も神泉苑貸切なんて馬鹿な真似は止めて下さい」
 今にも事切れそうな昌浩を私を見比べた後、彰子は渋々といった顔で昌浩から手を放した。
「白無垢が気に入らないのね! なら、十二単を着て上げましょう」
「露樹殿、着るものが気に入らないの次元の話じゃありません」
「藍殿は、老い先短い我々の楽しみを奪うと云うのか」
 晴明は、よよよっと嘘泣きをしてみせ私の眉間に深い皺が刻まれた。
「殺しても死ななそうな狸ジジイの戯言に付き合ってられません。祝言は、高淤神がいる貴船で行います。神前婚ですので参列者は不要ですから祝う必要はありません」
「貴船でなくとも、神泉苑でよかろう。神前婚なら尚更じゃ」
「高淤神を神泉苑に呼びつけるおつもりで? それとも、洛中に恵みの雨を序に降らせて貰おうと考えているのかしら?」
「……」
 ニッコリと笑みを浮かべてやれば、目を逸らされた。どうやら図星だったようだ。
「離婚前提の祝言を大々的にやったら、別れたあと昌浩が可哀想でしょう。もっと気を使って下さい」
 私の一言にその場が凍りついた。何故だ?
「お前の気の使い方は間違っていると私は思うがな」
「何がよ」
 呆れ混じりの溜息を零した勾陳が、ボソッと私に聞こえるくらいの大きさで呟いた。

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