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少女、災難到来に涙する [ 27/41 ]


 晴明を通して高淤神へ仲介を乞うたところ二つ返事で了承を貰い、私は白蛙を連れ白虎の風で貴船神社まで送って貰った。澄み切った空気と張り詰めた気配が心地いい。
 社交辞令で交わした挨拶が本当になろうとは、ここまで不幸か私。
 奥宮に鎮座する岩に腰を掛けた高淤神と見知らぬ神に私は一礼した。
「藍、連れて来たか」
「はい」
 すっかりと怪我も治った白蛙は、ゲコと一声啼いてみせる。地面に下ろそうとするも手から降りることなくジッと座ったままの白蛙に困った。
「高淤神……」
 藁にも縋る思いで高淤神見ると、彼女はニヤッと人の悪い笑みを浮かべているではないか。
「どうやら藍、それはから離れたくないようだな」
 嬉しくない。白蛙を従える神を目の前にして言えるわけもなく、曖昧に笑みを零すだけに留めた。
「そなたが、我が眷属を助けたのか?」
「傷の手当てをしただけに御座います」
「そうか。だが、安倍の小僧が従えている式神の無礼は許しがたい」
 反撃をされたことが気に食わないのか、秀麗な顔を憎悪に歪めている。騰蛇が神と言えど神格は最下位だ。精霊の成り上がりと蔑む神も多いだろう。
「安倍家を祟るなら、お前の眷属を救った藍も祟ることになるな」
「どういうことだ、高淤加美神」
「言葉通りよ。藍は、安倍昌浩の妻だ。人に借りを作った挙句、その相手を呪おうと言うのか?」
 何言っちゃってくれてるんですか高淤神!? 破壊力のあり過ぎる高淤神の嘘に言葉を失ってしまったのが悪かったのだろうか。
「…………恩人の夫となれば、我も手出しは出来ぬ。今回のことは、水に流そう。だが、次はない。帰るぞ」
 暫しの葛藤の後、安倍家の祟りを撤回してくれたかの神は、私の手の中にいた白蛙を摘み上げ闇に溶けるように消えていった。
 気配が完全に消えたのを確認した私は、岩に座りふんぞり返っている高淤神に噛み付いた。
「高淤神、どうしてくれるんですか!! 嘘がばれたら今度は、私諸共祟られるじゃないですか」
「嘘から出た誠にすれば良い話だろう。生まれてくるのが女児なら私に遣え、男なら我が眷属と子を成すと云うのも悪くないな。昌浩との子だ。高い能力を有するだろうよ」
 クツクツと楽しげに笑う高淤神に、私は激しく後悔した。
 こんなことなら、高淤神に仲介なんて頼まなければ良かった!!
 一部始終ばっちり覗き見していた晴明が、物凄く良い笑顔で祝言の日取りを占っていることを私は知らなかった。

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