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少女、白蛙を拾う [ 9/41 ]


 調味料が切れたので久々に屋敷の外へ出かけたら、帰り道で真っ白な蛙を見つけた。
 片方の足がもげてなく、血を流しながらズリズリと歩いている。傷口を見ると引き千切られたような後があった。
「……酷い。誰が一体こんなことをしたのよ」
 袖を探り手拭を取り出し、白い蛙の足を覆うように結ぶ。ジタバタと暴れる蛙に私は宥めるように声を掛けた。
「傷の手当てをするだけだよ。だから、少し大人しくてくれないかな」
 私の言葉を理解しているのか、大きな瞳が私の顔をジッと見つめた後大人しくなった。
 私は、蛙を胸に抱え早歩きで屋敷へと戻った。
 自室に入ると、蛙をクッションの上に置き薬箱を引っ張り出す。
 テキパキと蛙の治療をし終えると、離れた場所でそれを見ていた勾陳が徐に口を開いた。
「何故助けた?」
「助けるのに理由なんているのかしら?」
 馬鹿なことを聞くと鼻で笑い飛ばせば、彼女は確かにと一人納得している。
「でも、蛙にとって助けられたことが喜ばしかったかは分からないわ。後ろ足を一本失っているんだもの。何をするにしても片足がないのは不利になるわ。今生き延びれたとしても、これからどうなるかは分からないもの。結局、私が蛙を助けて満足したかっただけなのよ」
「身も蓋もないな」
「まあね」
 勾陳の言葉に私は肩を竦め、蛙をそのままに普段の生活へと戻った。


 勾陳が住み込みで監視すること十日が経った頃、私宛に一通の手紙が届いた。
 物凄く開けたくないと思いつつも、開けなかったら面倒くさいことになりそうだと第六感が言うので、勢いよく手紙を開く。
 差出人は、稀代の陰陽師からだった。ツラツラと書き綴られた内容を要約すると家に来なけりゃ押し掛けるぞ、と言った内容だった。
 意図が読めず強かに相手の懐に入り込むのは、ぬらりひょんと酷似している。強引過ぎる手紙の内容に溜息をついていると、勾陳が手紙を取上げ勝手に読んでいる。
「貴女ねぇ、人の手紙を読むなんて失礼じゃない」
「減るもんじゃないんだ。良いだろう」
「そういう問題じゃないと思うんだけど」
 態とらしく溜息を吐いてみても、彼女は意に介していない。
「気になっていたんだが」
「なに?」
「何故、私を貴女と呼ぶ。名前を教えているはずだが」
 勾陳の問い掛けに、私は薄らと唇の口角を上げる。なんだ気付いていたのか。
「私の意志を無視して、勝手なことを言って勝手に監視している相手に何も思わないとでも思っているのかしら。そうだとしたら、随分とおめでたい頭をしているのね。名前を呼ぶだけの価値がないからよ。分かった?」
 まさか、そんなことを言われるとは思わなかったのか。勾陳は、漆黒の瞳を大きく見開き凝視している。
 その姿を見て、私は少しばかりささくれ立った心の溜飲を下げた。

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