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少女、狐と対峙する [ 8/41 ]

 
「覗き見とは悪趣味ですね。監視を寄こした相手のところにノコノコやってくるなんて馬鹿ですか?」
 ズバッと突っ込んでやったら、身の丈ほどもある長い柄を振り揺らめく波紋の浮かぶ大きく湾曲した三日月の刃を喉元に突きつけてくる。
「晴明を侮辱するな!」
「侮辱? 本当のことでしょう。私が、晴明殿の命を狙う暗殺者なら監視を逆手に取り好機を伺い殺してましたよ。出された茶請けを食べる警戒心のなさ、ノコノコ現れる軽率な行動。それを馬鹿と言って何が悪い。そんなに大切な主なら、屋敷の奥にでも仕舞い込んで置けば良いでしょう」
 フンッと鼻で笑えば、私の言いようがツボに入ったのか勾陳が声を上げて笑い出した。
「ハハハッ……青龍、お前の負けだよ。尤もな言葉だね。もっと言ってやってくれ。懲りないんだ」
 そう云って退ける彼女に対し、私は眉を顰める。忠誠を誓っているというよりは、勾陳の晴明に対する態度は友人に対するそれだ。
 神将によって見解が大きく違うのは面白い。
「彼は、自分の信じた道を進む方ですもの何を言っても無駄です。こうと決めたら、周りの意見を捩じ伏せ突き進む。それが、例え茨の道だとしても」
 私の言葉に、三人は目を大きく見開いている。どうやら図星のようだ。
「貴様に何が分かる」
 唸るような青龍の声に私はニッと笑みを浮かべて言った。
「晴明殿のことは、何一つ分からないわ。でもね、人を見る目はあるの。彼と同じ目をした者を幾人も見て来たわ(人ではなく妖だけど)。似ているのよ、生き様が。尤も、貴方を人の括りにして良いのかは分からないけれど」
「ほぅ、面白いことを云う娘じゃのぉ」
「あら、散々言われたのではありませんこと? 貴方には、半分狐の血が流れてましょう。高天原へ行くことを許された狐の子」
 目を細め揺さぶりを掛ければ、彼はパチパチと目を瞬いている。正確に当てられたのが珍しいのかはさておき、友好的にお喋りして終わりということはないだろう。
「雑談してお帰りになる……と言うわけではないのでしょう。本題に入って頂けますか?」
「一月ほど前にあるはずのない場所に星が出来た。同じ夜に、昌浩が貴女と出会った。貴女の存在が、吉と出るのか。凶と出るのか。私は見極めなければならない」
「それだけではありませんでしょう」
「貴女には、分かってしまうようだ。死者を蘇らせる神子と聞く。真偽を確かめるために来た」
「一介の人間に出来るとでも思ってるんですか? 死者を生き返らせることが出来るなら、それこそ医者は要らないでしょう。出来るわけないでしょう」
 馬鹿も休み休み言ってくれと呆れた口調で吐き捨てると、勾陳が口を挟んだ。
「だが、川で溺れ心臓も呼吸も止まった子供を生き返らせたと聞くが」
「ただの医療行為です。仮死状態なら……魂が身体と繋がっている状態なら、心臓や呼吸が止まっても人工的に動かせば助かる可能性がある。私の生きたところでは、それは当たり前に行われていました。それでも、天命には逆らえない。生と死は、生けるもの全てに平等に与えられたもの。例え、神と言えど理を捻じ曲げることは許されない」
 厳しい表情で返せば、勾陳がその答えに満足したのか笑みを浮かべている。
「晴明、こいつの監視は私がする。面白そうだ」
 監視対象の前で堂々と言って退ける勾陳に私は配慮というものがないのかと渋い顔してみせるが、彼女は一向に気にした様子はない。
「冗談じゃないです。何で、貴女に監視されなきゃならないんです」
「護衛だと思えば良いだろう。よろしくな」
 ニヤッと笑みを浮かべもう決めたと言わんばかりの彼女の態度に、主である晴明を睨んでみるが効果はなかった。
「後は、頼んだぞ勾陳。私達は、これで失礼しよう。今度は、我が屋敷に遊びに来て下さい」
「監視対象を遊びに来させるってやっぱり馬鹿でしょう」
「ホッホッホッ」
 思わず怒鳴りつけるが、暖簾に腕を押すようなもので完全に晴明のペースに嵌った私は、極度の脱力感に見舞われガックリと肩を落としたのだった。

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