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少女、稀代の陰陽師と出会う [ 7/41 ]


 昌浩と物の怪を適当にあしらい帰しただけで終わると思っていたのに、そうは問屋が降ろさなかった。
 その翌日、神将を引き連れて押し掛けてきた。
 雑鬼達は、夜型なので昼間は静かなものである。基本的に、雑鬼達は客間には近寄らない。
 私の噂を聞きつけて着た人間を脅かそうとして、きつい仕置きをしたのが効いたのか、彼らは客間で悪さを働くことは無かった。
 一歩渡殿を出るとちょっかいを掛けて来るのだけど、元々彼らの住処を仮住まいにしているので大きく出れないだけだったりする。
 今日は、特に誰かと会う約束はしておらず久々に溜まった洗濯物や掃除に勤しんでいた矢先のことだった。
 雑鬼が、慌しく庭に下りて足元に縋り付いて来た。
「藍ーっ! タイヘンタイヘン!!」
「竜鬼、危ない」
 三つ目の蜥蜴が、ベタッと足に張り付き私は顔を顰める。持っていた着物を危うく落としかけた。
 心臓に悪い登場の仕方は止めてくれと暗に言えば、彼は慌ててゴメンと謝ってきた。
「ハッ! それどころじゃなかった。あのね、晴明が押し掛けてきたんだ。しかも神将連れて!! 凄くおっかないんだよぉぉおお」
 何とかしてくれと半泣きになっている竜鬼に、私は今度こそボトッと着物を落とした。
 昌浩や物の怪に対して挑発的なことを言ったのは認めるが、昨日の今日で来るとは誰が思うだろうか。
 予想外も良いところだ。竜鬼の様子を見る限り、私の態度が神将たちの心象を悪くしているのは明白だ。晴明はどうかは知らないが。
「竜鬼悪いんだけど、彼らを客間へ案内してくれる? 案内した後は、台所の戸棚に入っているお菓子食べて良いよ」
 神将が怖いのかなかなか頷きはしなかったが、長い葛藤の末にお菓子に目が眩んだ竜鬼は渋々頷いてくれた。
 私は、残りの着物を竿に通し干す。汚れた着物は、空になった桶に入れ自室に戻り着物を着替えたのだった。


 客間に向かうと渡殿からでも分かるくらい殺気が駄々漏れである。相当苛々しているな。
「失礼します」
 襖に手を掛け引くと、若い頃はイケメンだったのが分かるほど見目の良い老人と不揃いな長くて青い髪と夜の湖のような深い蒼の瞳が印象的な青年、そして肩に付かない位置で切りそろえた漆黒の髪に濡れたような黒曜の瞳を持つ女性が老人の傍に控えていた。
 苛々しているのは青い髪の男で、黒髪の女は冷静にこちらを観察している。
「お待たせ致しました。安部晴明殿と神将のお二方、ようこそ我が邸へ」
 ついでのように付け加え挨拶をすれば、晴明は大きく目を見開き私を見ている。
「気付いておられたのですか。青龍、勾陳」
 薄らとした気配だったが、晴明の呼びかけで今度はハッキリと姿を現した。
「気配には敏感ですから。それに、気配云々の前に殺気を駄々漏れにしている方がいますしね」
 からかうように言えば、射殺さんばかりに睨まれた。
「本日は、特に誰かと会う約束はしておりません。晴明殿は、何用でこちらへ?」
「昌浩を助けて貰った礼をしに参ったのじゃ。会いたければ会いに来れば良いとお許しも頂いたことじゃし。まあ、ジジイの戯言にちぃとばかし付き合って貰えんかのぉ」
 昌浩や物の怪が報告するにしても、私の言葉を全部伝えているとは思えない。
 あの時の出来事を一部始終除いていたかのような彼の言動に、私は眉を潜めたのだった。

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