小説 | ナノ
少女、食事を振舞う [ 6/41 ]
膳が並ぶわけでもなく、大きな正方形の卓を二つ並べ大皿に盛った料理を並べていく。
呆気に取られる物の怪と昌浩を余所に、それが普通になっている私は気にせず雑鬼に飯をよそってやる。
味噌汁とご飯が皆に行き届いたのを確認した後、今日の当番が声を張り上げて『合掌』の音頭を取った。
「合掌」
各々手を合わせ、頂きますの声を上げる。起用に箸やお手製フォークを手にした雑鬼がおかずに手を伸ばし取り合っている。
「お二方、ボーッとしていたらなくなりますよ」
弱肉強食。自分のご飯は、自分で確保しろ。それが、ここの掟である。
私は、取り皿におかずをよそう。モグモグとご飯を食べている横では、雑鬼達のおかず争奪戦が繰り広げられていた。
熾烈な食事争いに負けそうになっている昌浩と物の怪を不憫に思い今日ばかりは私が取ってやるかと、彼らの皿を手に取った。
「はい、どうぞ」
適当に盛り付けたおかずを受け取った彼らは、呆気に取られつつもありがとうと返してくる。
こういう時でも、しっかり感謝の言葉を述べられるのは教育が行き届いている証拠だ。
「それで今日は、どのようなご用件で?」
「えっと……」
箸を置こうとした昌浩に、私は手で制し食べながらでと言ってやれば、彼は小さく頷きご飯を口に含みながら話を続けた。
「ジイ様が、貴女に会いたいから家に来て欲しいんだ」
「何故?」
あんたのジイ様と面識ありませんけどー、と思いつつも理由を聞けば、困ったような笑みを浮かべて彼は言った。
「興味を持ったから?」
何とも説得力に欠ける歯切れの悪い言葉に溜息を吐くと、隣で黙々と飯を貪り食っていた物の怪は口を開いた。
「数日前、見たこともない着物を纏い妖と鬼事してたのお前だろう」
「あら、覚えていたのね」
「身を挺して逃げろと囮になり妖を昌浩から引き離してくれた。晴明は、礼がしたいんだと」
私は、物の怪の言葉に眉を潜める。嘘をついている。本心は、礼がしたいわけではないだろう。
昌浩を見ていて分かるが、晴明という人間は礼がしたいと言うなら自ら動くだろう。
「建前は分かりました。それで、本心はどこにありますか?」
グダグダ御託は良いから、サクッと用件を言えと促せばビシッと顔を引きつらせる一匹と一人の姿はあまりに滑稽だった。
「監視だ。あまりにも不自然すぎる存在に晴明は危惧している。巷じゃ神子と呼ばれているみたいだが、俺は信じねーぞ」
「もっくん!!」
誤魔化しても無駄だと判断したのか、今度はすんなりと吐いた物の怪に私は声を上げて笑う。
「ッククク、監視役が来るとはねぇ。こう言ってはなんですが、私自身不審者ですから。言っておきますけど、神子を名乗ったことなど一度もありません。勝手に神子に祭り上げられただけですからねぇ。それだけ縋るものが身近にないくらい切羽詰っている者が多い。単に民の不安が反映されている証拠ですね」
暗に政道が悪いとと毒を吐いてみるが、昌浩の方は素直に私の言葉を受け止めている。
物の怪はというと、私の言葉の裏を正確に読み取ったのか渋い顔をしている。
「監視するのもご自由にどうぞ。それと、会いたいなら本人が会いに来れば良いことです。ジジイの戯言に付き合うほど暇ではありませんし、一銭の得にもなりませんからね。私を動かしたかったら、見合うだけの金子を用意するか、納得できる理由を引っさげて来るかして下さい」
ニッコリと笑みを浮かべ宣う私に対し、物の怪の怒号が邸内に響いたのは言う前もない。
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