雨に隠れてキスしよう
さあさあとふり続く雨は、ここ数日降ったりやんだりを繰り返している。お嬢は散歩が出来ず退屈そうだし、芒は洗濯物に頭を悩ませているようだ。……俺はと言えば、普段から買い物や使いでしか外に出ない上、必要なら車を出せばいいのでそう気にしてもいなかったのだが、横にいる存在にとってはそうでもなかったらしい。
「こうも雨ばかりだと、気が滅入るよねえ」
溜息を吐きながらそんなことをぼやいているが、そもそもお前に至ってはやろうと思えば傘を差さずとも濡れずに出かけられるだろう。そう思って、それをそのまま伝えると、
「濡れるから滅入るわけじゃないでしょ。お日様見ないと晴れない気持ちもあるってことだよ」
続けて「桔梗にはわかんないか」と言われ、釈然としないものの、確かにそういった情緒はわからないのも事実だった。
「…わからないと死ぬようなことでもないだろ」 「これだから桔梗は。もう少しさあ、憂鬱を共有しようとか思ってくれないの?」 「難しいことを言うな」 「じゃあじゃあ、僕の気分を晴らすお手伝いをしてくれるとかさ」 「……たとえば?」 「キスとか?」
まあそれくらいなら良いか、と言われるがままにしてやると、少しだけぽかんとした顔をしてから、悔しそうな表情をつくって、また「これだから桔梗は」と言う。それでも先程よりも口角が上がっているところを見れば、少しは気が晴れたのだろう。
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