多喜くんの成長

息が切れて、足がもつれる。
これほど普段の運動不足を呪ったのも久々だ。前は確か、数年前にこっそり外出した先で妖に目を付けられて、正路くんに助けてもらうまで逃げ回った時だった。
あの頃から、結局なにも変わっていない。
無力で、臆病で、傍観ばかりの卑怯者。

……それでも、変われるなら変わりたかったし、どれだけ狂っていても家族を捨てられはしなかった。

一人で立てないのは、嫌になるほど知っている。
だからこそ、目の前の切っ掛けを逃したくなかった。成り行きとはいえそれに出会えたのだから、僕はとても恵まれているのだ。
ここで立てないなら、守られる価値なんてありはしない。
抱えた神楽鈴が、背中を押すようにまた鳴った。


立ち込める妖気と、刺すように冷えた気温。指先から血が失せる。

「友達のピンチに身を捧げにでも来てくれたの?」
満身創痍、というのがしっくりきてしまう様な正路くんの背中越しに、少年の姿をした妖が嗤った。

こわい。……でも。
吐き気をやり過ごして、背筋を伸ばす。

「餌になる、つもりは、無い…です。僕も…友達も。」

まっすぐ睨みつけて、震えそうになる声を、体を叱咤して、恐怖ごと振り払うように。

――金色の、澄んだ音が、響く。


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