もののけ01

 月がきれいな夜だった。
 こんな良い夜に引き籠って居る道理は無い。主治医に後で叱られることなど懸念にもならないし、だいたい体調が悪いわけでもないのに出かけるなというのがおかしいのだ。体調さえ良好ならば自分の身は自分で守れる。もちろん、例外も少なくはないが。
 それでも諸々の判断材料を加味した上で、聖川譲は自室でひとり頷いた。

 ――月夜の散歩と洒落込もうじゃないか。


 家からの脱走作戦を難なく完遂した譲は、清々しい気持ちで夜の街を歩く。家の人間に見つからない程度に道を選び、あかりも少なく、人も居ない、月見に絶好の場所へと向かう。
 そうして、譲いわく月見ポイント――一般的には、墓場と呼ばれる場所ではあるが――に辿り着いたころには月は頭上高くへと登っていた。それを見上げ、整った顔を笑みにゆるめては、譲はもう一度、良い夜だ、とひとりごちた。

 
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