非日常的な日常茶飯事

つむちはデュラパロ

 初めて彼らに出会ったとき、僕は少しだけ落胆したのを覚えている。確かに見た目の組み合わせや、女性の方の異常性は目につくものではあったけれど、それは非日常と言うほどのものではなく、個性の範疇。そう、思ってしまったからだ。

 けれど。

 前言は撤回しよう。彼も、非日常側の人間であるらしい。

 人だかりの中心で、正座している有名人と、その眼前に仁王立ちしている彼――根梨瞑の背を見つめながら、僕は確かに高揚していた。

「――何度も言ってるだろ?」
 溜め息と共に、低い声が地を這う。
 以前彼が同じような言葉を恋人に言っていた時とは、かけ離れた声音だ。
「別に俺は、お前らがどんなにお互いを嫌いでもどうでも良いって。」
 仁王立ちの根梨さんは、表情こそこちらからは見えないが全身から静かな怒りを滲ませている。
「平和島が人智を超えた馬鹿力だろうが、折原が得体の知れない情報通だろうが、お前らがどれだけ喧嘩しようが殺し合おうがどうでもいいし、」
 全体的にそこをどうでもいいと言えるのは根梨さんくらいじゃなかろうか。そう思いつつ、口を挟める人間はこの空間には居ない。
「俺だって死にたいわけじゃないが、この際引き合いに出すならお前らに俺が殺されようと正直どうでもいいんだよ。」
 とんでもない発言をさらりと放ち、彼は一度間を置く。ただな、と。これ以上冷え込むとは思わなかった空気を更に凍らせるように、彼は言う。

「茅花に危害が及ぶならお前ら、死ぬよりキツい目に遭わす」

 って、何度も言ってるだろうが。

 ドスの効いた声と背中から垂れ流される怒気だけでも身が凍るのに、それを正面から受けている彼らはお互いを睨み付けている。
「おい、聞いてんのか」
 また、声が地を這う。
「聞いてるけど」
 さきに口を開いたのは、折原さんだった。

「聞いてるけど、これはないでしょ」
 あからさまに、不満です、という顔で彼は捲し立てる。
「なんでシズちゃんなんかと並んでお説教されなきゃいけないわけ?しかもこんな公衆の面前で!」
 こんなの拷問だ、そう吐き捨てる折原さんだったが、次の瞬間にはその胸ぐらが掴み上げられ、「こっちの台詞だノミ虫ィ !」と、先程までの根梨さんに負けず劣らずどすのきいた声が響く。
 ああ、また始まるな。
 その場にいた誰もがそう思っただろう。否、根梨さんのことを知っている人なら、もしかしたら違ったのかも知れないが、少なくともこのときの僕にはそんなこと知るよしもない。
 今よりも距離をおいたほうが良いかもしれない(もちろん物理的に)、と思いすこし思案した、そのときだった。

 ゴン

 と、鈍いおとが響いた。
 いくらさっきまで空気が凍っていたとは言え、ここは都会の真ん中で、人だかりは結構なものだ。いつもどおりの喧騒はなくともそこそこの物音や話し声は有るし、何より現時点でも中心からはそれなりの距離があるはずだった。
 けれどその音はたしかに、野次馬に囲まれたスペースの真ん中から聞こえたのだ。

 はっとして視線をそちらに向けると、胸ぐらを捕まれて浮きかけていた折原さんも、立ち上がりかけていた平和島さんも、脳天をおさえて踞っていた。
 何が起こったのだろう。理解が追い付かずに根梨さんを見やると、彼は呆れと怒りが混在したような表情で、ひらひらと手を振っていた。親しい人などに向けるそれではなく、熱いものにふれたり、痛みを訴えていたりするときのその動作から、察する。
 あの二人をゲンコツで黙らせたのか、この人は。



収拾がつきませんねL(‘▽‘)/
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