異人との邂逅、そして
ぶわ、と舞った風に、思わず目を閉じた。そして、次に目を開けた時にはもう、"それ"は目の前に佇んで居た。
「ハジメマシテ、騎士様。」
にこりと、人の良さそうな笑みを浮かべてそう言う、青年。金の髪と黒いコートを突風の余韻に揺らしながら、深淵の瞳を細めている彼は、街中で普通に出会ったならば何も警戒することなど無かったであろう、優しげな風貌をしている。 だが生憎、肝心の出会い方は普通ではなかった。風が吹いて、止んだら其処に居た、等と。おとぎ話か何かのように現れた彼は、たとえそれが偶然だったとしても、その姿を視認するまで気配が全くなかったこと、ここが王城の敷地内であることを思えば警戒するなという方が無理だった。 じり、と片足が後退するのを自覚しながら、スタードは口を開いた。 「…何者だ?」 返答によっては。そう言外に込めながらカチリと剣の柄を慣らしたが、眼前の青年は、笑みを貼付けたまま問いに答える。 「んー…通りすがりの、ばけもの、だよ」 返答の真意を捉え損ねて当惑するスタードを尻目に、「騎士様、」と形の良い唇が動く。酷く甘い声音で、囁くように。
――ここから、逃がしてあげようか。
全てを見透かすような、闇を孕んだ瞳に、射抜かれる。 「何、を」 絞り出した声は、掠れていた。彼は続ける。 「疲れているみたいだから。…ここから――というより、その現状から」
にがしてあげようか
もう一度繰り返された言葉。 馬鹿げている。そんな誘いに乗る筈も無い。 逃げなくてはならないような状況に或る自覚は無かったし、たとえ逃げたとして、王都騎士団に所属している身だ、すぐに見つかるのは目に見えている。彼はそのことを知らないで言っているのだろうか、それとも。 ――否、そんなことはどうでもいい。自分は只、「断る」と一言口にすれば良いだけなのだから。
けれど、喉が詰まったまま、拒絶の言葉が出てこないのは。 彼の瞳に気圧されたのか、それとも――
ほんとうはそれを、望んでいるからなのか。
心根が揺らいだのを感じ取ったのか、目の前の青年は、口の端を吊り上げた。 先ほどまでの、優しげで人の良い笑みではない。
其れは正しく、獲物を手中におさめた悪魔のそれだった。
暗転。
ハッと目を覚ます。
……妙な夢を見た。そう思いながら起き上がり、頭をひとつ振って息を吐く。 そして、持ち上げた視界に飛び込んで来た光景に、息を呑んだ。
全く見も知らぬ部屋――ここは、何処だ。
ちからつきた
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