最近のこと

 どいつもこいつも幸せそうで何よりだな。メールを一通りチェックした感想を感慨無く呟きながら、冬樹はアドレス帳を開いた。

 誘ってもノらなくなった同僚は、聞いてみれば答えは簡単なもので、彼女ができたのだと宣った。その様子は、ずっとほしくてたまらなかった玩具をやっと手に入れた子供のようだったが、まあ実際似たようなものだろう。
 世間一般の人間から見れば重過ぎるその愛を一身に受ける女はどんなものかと好奇心のままに見に行ってみれば、一言で言うなら随分とネジの足りない女だった。純粋なところが良いのだと聞いてはいたが、些か純粋すぎる。遊ぶぶんには面白かったのでそうしていたが、最終的に怒りだした女はどこからか男を連れてきて冬樹に押し付けた。
 曰く、これをやるから同僚には手を出すな。
 ガキみたいな言動のくせにいっちょ前に嫉妬はするのか、と頭の片隅で思いつつ、どこから連れて来たんだ"これ"はと見遣ってみれば、明らかに状況を飲み込みきれていませんと言いたげな男と目が合った。そして思った。
 見目は悪くないし、まあくれるというなら貰っておくか。
 我ながら軽い。多分、その時は俺も男同様混乱していて、しかも彼女の嫉妬を嬉しく思うあまりに他のことはとりあえず度外視している阿呆のように器用ではなかった。顔には出ていないが女の頭を撫でているのとは逆の手が握りしめられて震えいたのを俺は見た。

 最近あまりうちにこなくなった弟は、自分から理由を明かした。猫を拾ったのだと言う。いつものように里親を探すつもりだったのだが、それに先手を打つようにある青年が訪ねてきたとも言った。
 その青年は、弟が拾った猫の飼い主だと名乗り、どういう訳だか、猫を任せるとだけ言って帰っていったらしい。否、だけ、という程では無かったかも知れないが、まあ要約すれば大差はない。
 詳しくはぼかされたがなんだか随分と手のかかる猫のようで、弟は前よりも減った訪問の際には毎回愚痴っていく。微妙にごまかすようなその話しぶりに、俺に隠し事するような歳にもなったか、と思いながら聞き流すのが常だが、そうやって愚痴りながらも満更ではなさそうだから良しとしよう。

 よく来ていた二人の居た時間と場所には、同僚のところで貰ってきた男がおさまっている。
 たびたび飛んでくる小言はそれなりに鬱陶しいが、まあ同僚にも弟にもよく言われることが大半だ、今更言う人間が増えたところで問題はない。それに、家事を殆ど担ってくれているので、どちらかと言えば存在自体はプラスである。

 長々と続くコール音。思考を巡らせるのにも飽きた冬樹は舌打ちを漏らす。
 同僚からのメールは、殆ど業務連絡だったが、有休を取ると書いてあったのを見た瞬間、デートだな、と半目になった。邪推かもしれないがまず間違いないのでムカつく。ちなみに冬樹はその日大嫌いな会議である。喧嘩売ってんのか。
 弟からのメールは、何日と何日にこっちに顔を出す、といった連絡。こちらも文面自体は普段と大差無いが、珍しく添付されたファイルがあった。『見せるって言ったから送っとく』。そう添えられた写真には、綺麗な真っ白い猫が写っていた。

 基本的には変わらない日常に少しずつ生じる変化は、退屈を紛らわす代わりに安定を奪っていく。危うい日々は嫌いじゃない。
 普段と違うものを見ると刺激を受ける。せっかくだから自分も外に出て息抜きでもするかと、そんな漠然とした気分になる。
 一秒先は未来で、一秒後ろはもう過去だ。どちらかを見るなら、知らないものを見た方が楽しいに決まっている。
 やっと途切れたコール音と入れ代わりに聞こえた声に、冬樹は口の端を吊り上げた。



了。


意味わからない出来になった!
冬樹さん独白、つむちはと刹那さん、夏樹と七瀬さん。
出てこないからどうでもいいことけど電話の相手は慶輔さんのつもりだった。
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