慣れてきた酔っ払い

 何年も一緒に居れば正直、いろんなことがわかってくる。それは、相手が自分をどれだけ好きなのかだとか、相手が自分に何を求めているかだとか、自分が相手にどれだけほだされたのかだとか、……自分が相手を、どれだけ好いているかだとか。まあ、いろんなことだ。

 例えば、良い酒を持ってきては俺のグラスにばかり継ぎ足していたりするときは、多少なりとも何かしらの下心を持っている、ということくらい学習している、と……つまるところそういうことで、現在その状況であるという話なのだが。
「…みどりかわ、も、いらん…」
 呂律の回らない口で端的に拒否の意を示してグラスを置く。ここまでアルコールが回っているようでは、きっと明日は二日酔いと記憶喪失の二重苦だろう。とはいえ、今現在だけの話をするなら、特有の浮遊感や高揚感で、気分は良い。
 口当たりが良い割には度数の高い酒を、すすめられるままに煽りながら、頭の片隅で思っていたことがあった。それをふと思い返して、不明瞭な呻き声をあげながら天井を仰ぐ。
 心配そうに覗きこんでくるコイツが、腹の底で何を考えているかなんて、基本が単純思考の俺にわかるわけが無いのは自明の理だ。それでも、さっきも思った通り、"何かしらの下心"を持っていることはわかる。"それが何か"はわからないにしても、だ。
 ――だというのに甘んじて、なにも言わずに飲み続けたことには少し、意味があるのかもしれないなどと。きっとコイツは知らないし、俺自身だってついさっきふと気付いたばかりだ。

 自分の中で、酔わなくては言えないことが少なくないのは自覚している。その中に、恋人が望むような言葉が多分に含まれていることだって、知っている。少しくらい言った方が良いことだってわかっているし、言おうと努力したことがないわけでもない。
 それでも、やっぱり足りないのは明らかで、だったらいっそ、チャンスをくれるのに甘んじるのは妥当だと思う。多分、それらを聞きたくて酔わせにきているというのは、少なからずあるのだろうし。
 惚れたほうが負け、とはよく言ったもので、正直認めたくないし、恥ずかしさと情けなさで死にたくなることもしばしばだ。それなのに側にいるのが心地好いという感覚だとか、ふとしたときにやっぱり悪くないなと思う思考だとかは、無視できるものじゃないらしい。やっぱり負けている、とは思いながら、向こうも同じかも知れない、という希望的観測も持っている。

「……まもる、」
「はい、なんです、か…えっ?」
 不意打ちで普段呼ばない名前を呼んでみたら、わかりやすく動揺を見せた。笑いそうになるのをこらえて、ちょいちょいと手招く。寄ってきた緑色の頭を、後頭部に手をそえる形で引き寄せて、唇を重ねてみた。目測を誤ったらしい、軽く歯がぶつかったけれど、他には大した抵抗も無く。至近距離でエメラルドの瞳が見開かれるのを、薄く開いた視界の中で捉えた。
 してやったりだ。希望的観測はやっぱりそこそこあっているらしいことを確認した。それに満足して力を抜いたのと殆ど同時に、まるで拘束するようにきつく抱きしめられる。息が詰まる程の力に、余裕の無さを感じ取って、ああ少し申し訳ないな、と思いつつ、口を開く。
「まも、…おや、すみ、」
 頭を肩にこすりつけながらゆるゆると紡いだ言葉はきちんと届いたようで、一瞬硬直した後に動揺しきった声と共に軽く揺すぶられる。それがおかしくて喉奥まで笑いが込み上げたが、どうにも眠気が酷い。あんまりですよぅ、とか聞こえたような気もしたが、それを笑う間もなくすとんと意識が闇に落ちた。


_了

何も考えずに書いてたら完全に悪女だった。
何年後かくらいにはこれくらいになってたらなっていう希望。空稀さん成長しろ。
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