待ち人

 初めて会ったときは特別な感情なんて無くて、ただちょっと、面白くて、優しい人だなぁと思ったくらいだった。思い返せば随分な醜態を晒した自覚があるので、僕は忘れたかったし忘れてほしかったのだけれど、彼は忘れる気が無かったようで、時折掘り返されては頭を抱えたものだった。
 正直なところ、あの頃の僕はいろいろと自棄になっていて、血が美味しければ誰だって良くて、暇を潰せればもっと良いなって、それくらいの基準でひとを選んでいた。相手の感情なんて見ないフリで、自分の感情にも蓋をして、どうでもいいものだって思い込もうとして。
 家族も居ないし、友達も少ないし、仲良くなっても人間はすぐに死んでしまう。ひとりぼっちが寂しくて、それで自棄になっていただなんて、知られたらどんな顔をされるだろう。馬鹿にされるかなと思ったけれど、きっと彼は悲しい顔をするんだろうな、と思い直した。
 死んでくれるなと僕に約束をとりつけた彼は、きっとぜんぶわかっていた。わかった上でそれでも生きろと望んでくれたんだろうし、嫌だなんて多少は言っても、約束自体の拒否は結局出来なかった。けれどやっぱり寂しくて、どうしようもなくて。今だって、こうして膝を抱えて、あなたを想っている僕が居るわけで。
 寂しくて、泣きたくもなるけれど、どうにもそれをする場所が無くて、友人に愚痴の様には話したけれど、やっぱり素直に弱音なんて吐けなくて。結局、あなたのいた場所で一人、思い返しては、かなしくなったり、うれしくなったり、さみしくなったり、そんなことを繰り返している。
 ……待って、いるから。たとえそれが果たされない約束だったとしても、いつか、いつか。ちいさなちいさな可能性に縋って、切ないこの気持ちはちゃんと持ち続けて、いつかあなたに会えたときには、ちゃんと、喜びで涙を流せますようにって。
 祈りながら、待っているから。

「――あいたいよ……ガトーさん…」

 こぼれた呟きは震えていて、抱えた膝に額を押し付けて縮こまる。視界の端っこで、左手の指輪が鈍く光を反射していた。


_了_

診断結果から書いたやつヾ(:3 ノシヾ)ノ゙
寧ガトのテーマ 感情なんて、どうだっていい。/わかってるくせに。イヤなんて、言えない。/縋りたい。切ない。泣きたい。
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