ドアが開く音がして、軽い足音が近付いてくる。微睡みから抜け出せないまま、気配が横に立つのを感じた。
「…また、フラれたの?」
 後輩の声だ。普段は何を考えているかよくわからないのに、今の声は、わかりやすく心配している声だった。
 眠くて返事を返すことができないけれど、向こうも俺に意識があるとは思っていないのだろう、とくに気にした様子はない。
 そっとのびてきた手が、あやすように頭を撫でる。…ああ、あの娘もこんなふうに、優しくしてくれる娘だったのにな。また目頭が熱くなって、じわりと涙がにじむ。頭を撫でていた手が少しだけぎくりと固まって、それから目元に降りてきた。
「…泣かないでよ、慧さん。」
 優しい。その手も、声も、いつもとは比べ物にならないほどに。いつもこうならいいのに。そう思ってから、でもそれも少しきもちわるいかな、と思い直す。
 優しい手と声に導かれるように、微睡みが意識を絡めとっていく。もう少しだけ、眠っていてもいいだろう。こいつが俺を起こさないってことは、まだ時間はそんなに遅くないのだろうから。
「フラれるのがかなしいなら、」
 闇に溶けかけた意識に、そっとささやく声がきこえた。

「僕にしてくれても、いいんだけどな」

 夢か現かもわからない告白は、目覚める頃にはきっと忘れてしまうけれど。


理不尽な関係へのカウントダウン



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